中国勢の台頭と有機ELの行方、ディスプレイ業界の未来:ディスプレイ業界を望む 2018(1)(3/3 ページ)
EE Times Japanでは、ディスプレイ業界の現状を振り返り将来を見通すべく、市場調査会社IHS Markitのアナリストにインタビューを行い、複数回にわたってその内容をお届けしている。第1回は、ディスプレイ産業領域を包括的に担当する同社シニアディレクターのDavid Hsieh氏より、大型/中小型液晶と有機ELの現状と未来を聞く。
有機ELの現状と未来
EETJ 有機ELテレビの普及はどのように進みますか。また、大型の有機ELパネルについて需給状況を教えてください。
Hsieh氏 2017年は170万台、2018年は大きく成長して300万台の出荷を予測している。1500〜2000米ドルの価格帯となるスーパーハイエンドセグメントで、有機ELテレビの需要は根強い。このセグメントのマーケットでは色再現性、薄型化などの性能が重要視されるため、有機ELが液晶を圧倒している。
しかし、需要に対して生産能力が不足している。テレビ向けの大型パネル生産は非常に難しく、LG Displayのただ1社が供給している状態だ。BOEや華星光電(CSOT:チャイナスター)など中国メーカーが、大型パネル量産に向けて研究開発を進めているが、量産開始にはまだ遠いとみられる。LG Displayも、直近の生産キャパシティー拡大は難しく、さらに高い原材料コストに苦しんでいる。よって、現時点では大型パネル価格は値上がりの方向に進んでいる。
一方で、LG Displayは有機EL向けの設備投資計画を進行しており、中国での第8.5世代生産ライン立ち上げや、2〜3年後には第10.5世代工場を新設し稼働させるプランがある。今後、生産キャパシティーが十分に確保できた場合にはスケールメリットが働き、コスト低減に向かうだろう。
ディスプレイメーカーの淘汰が進むか
EETJ ディスプレイ産業は激動の様相を見せていますが、ディスプレイメーカーの淘汰は進むのでしょうか。
Hsieh氏 その可能性はあるかもしれない。しかし、韓国・中国メーカーの撤退はないだろう。あるとするならば、台湾系メーカーだ。台湾系の各パネルメーカーは、2017年決算で黒字を確保したが、この利益の一部を活用して銀行の融資を返済する戦略にでている。台湾系メーカーは経営状態は苦しいが、借入金返済の負担は低くなった。
すなわち、新規設備投資を実行できてはいないものの、財務状況は改善しているといえる。よって今後発生するかもしれない赤字決算に対して、どれほど耐えることができるかが問題になるだろう。
EETJ 中国メーカーで注目されている企業はありますか。
Hsieh氏 最も総合的に実力がある企業はBOEになるだろう。分野別にみると、中小型液晶パネルでは天馬微電子、有機ELパネルではVisionoxが強い。しかし、BOEも有機ELに投資の軸足を移しつつあるため、将来的には有機ELでもBOEが中国メーカーの覇権を取る可能性が高い。
EETJ 最後に、部材や装置メーカーの動向について聞かせてください。
Hsieh氏 第10.5世代の超大型ガラス基板の生産が始まろうとしており、先陣はCorningが切った。2019年頃から旭硝子でも始まる予定だ。ドライバICでは垂直統合が進んでおり、高解像度化に対応しつつもチップ数をシュリンクする傾向にある。光学フィルムや偏光板については、透過率や色再現性の向上に向けて研究開発が進んでいる。
中国勢も部材業界に進出したいと考えているが、現状では難しいだろう。日本勢など化学関連技術に長けたメーカーが多く、参入難度が高い。ガラス基板に着目すると、中国メーカーも製品を出荷しているが、第8世代以降の超大型ガラス基板には対応できていない。有機EL系の部材についても、中国メーカーは研究を進めているが量産化には至っていない。日本・韓国勢の躍進が続くだろう。
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