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データセンターを支える光伝送技術 〜ハイパースケールデータセンター編光伝送技術を知る(4)(4/4 ページ)

今回は、エンタープライズデータセンターに続き、GoogleやFacebook、Appleなどが抱える巨大なデータセンター、「ハイパースケールデータセンター」について解説する。

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ハイパースケールデータセンター内の光伝送部品

 ハイパースケールデータセンターではスイッチ間の光ファイバーネットワークの構築がパフォーマンスを決定する重要課題の一つであり、各社の工夫がみられる。光部品は大きく光ファイバーと光トランシーバーである。

 先述したように、インフラとして例えば20年間使用されるシングルモード光ファーバー(SMF)ネットワークの敷設は、データセンターのアーキテクチャを決定する。また、ノンブロックネットワークを実現する複雑な接続を、誤ることなく実施できるような工夫が必要となる。数十万の光トランシーバーに、いかに正しく光コネクターを挿入するか、各社が頭を悩ませているのだ。

 データセンターの構造には、「TIA-942」という標準規格がある。サーバラックが規則正しく並ぶフロアを「EDA(Equipment Distribution Area)」と呼ぶが、その天井下にトレーを置き、光ケーブルを敷設する。これを水平ケーブル(Horizontal Cable)と呼び、この空間を「HDA(Horizontal Distribution Area)」という。

 サーバラックのTORスイッチに接続された光ファイバーは、HDAを介して、Leafスイッチが並ぶ「MDA(Main Distribution Area)」に集められる。EDA、HDA、MDAから成る空間を「ZDA(Zone Distribution Area)」と呼ぶが、ハイパースケールデータセンターは、複数のZDAを有する。各MDAのLeafスイッチと、その上位のSpineスイッチ、さらにその上位のコアスイッチを置くエリア(FacebookでいうところのBDF)との光ファイバー敷設が、一番複雑だといわれている。

 ファイバーインフラには、12本の光ファイバーを250μm間隔で並べたテープファイバーを、隙間なく束ねたケーブルが用いられる。後述するように、1個の光トランシーバーには2本あるいは8本のファイバーが接続される。この2本あるいは8本のファイバーを、12本のファイバーから成るテープファイバーで構成されるファイバーインフラに接続するための分配盤(ネットワーク・ラック)が、MDFなどに設置されている。


図6 ハイパースケールデータセンターの光ファイバー配線(クリックで拡大)

 光トランシーバーは、Microsoftの例のように、最新のハイパースケールデータセンターでは100GbE(ギガビットイーサネット)をベースにした光ネットワークを構築している。その光トランシーバーモジュールの形状(Form Factor)は、QSFP28だ。

 電気信号は、送受それぞれ4本のOIFで規格化された28Gビット/秒(Gbps)信号である。光伝送仕様は伝送距離によって決まり、IEEE 802.3 EthernetやMSA(Multi-Source Agreement)という、業界標準をベースにしている。使用個数が多いこともあり、温度などの使用環境やパワーバジェット(光出力や光受信感度)、管理のための読出し情報などが、各社独自のカスタム仕様となっている。

 ほとんどのデータセンターでは、SMFのCWDM4/CLR4とPSM4というMSA仕様がベースに用いられている。CWDM4/CLR4(両者はビット誤り率が異なる)とPSM4は両方とも、約25Gbpsの4つの光信号を伝送して100GbEとしている。

 CWDM4/CLR4は、決められた異なる4波長の光信号を波長多重分離し、送受1本ずつの光ファイバーで送受する。2連LCという光コネクターを用いる。

 PSM4は4つの光信号を4本の光ファイバーでそれぞれ送受する。MPOという12芯の光コネクターを用い、12芯の内の8芯を用いる。CWDM4/CLR4とPSM4は、波長多重の有無とファイバー本数に違いがあるが、アーキテクチャを考慮したトータルコストにより選択されている。

 次世代の400GbEでは、QSFP-DDとOSFPというモジュール形式(Form Factor)が競争している。両方式とも電気主信号は送受それぞれ56Gbps x 8本である。QSFP56-DDは、QSFP+やQSFP28とバックワードコンパチなのでFacebookやMicrosoftなどが支持している。一方、QSFP112という電気主信号112Gbps x 4本の方式も検討され始めていて、OIFにおいて112Gbpsの標準化に向け動き出している。

 400GbEの光仕様はIEEE 802.3で規格されているが、「100GLambda」というMSA仕様も有力視されている(参考)。IEEE802.3の28GBaudのPAM4(=56Gbps)と100GLambda MSAの56GBaudのPAM4(=112Gbps)の方式競争となっている。56Gbpsの場合、8つの光信号を使用するため消費電力やコストが懸念されている。112Gbpsの場合、新規な高速なデバイスが必要であり、デバイスメーカーが開発中である。日本にあるレーザーメーカーは、56GNRZのデバイスは開発済みだが、PAM4用に改善しているところであり、112Gbpsをリードすると期待されている。112Gbpsの場合、高速なデバイスが必要となる。どの方式を採用するのかは、慎重に見極める必要がある。

 その先は不透明だがMicrosoftは「COB(Consortium for On-Board Optics)」を立ち上げている。それに関しては技術の項で触れる予定である。


図7 ハイパースケールデータセンターの光トランシーバー(クリックで拡大)

筆者プロフィール

高井 厚志(たかい あつし)

 30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。

 日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。

 さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。


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