Intel 10nmプロセスの遅れが引き起こしたメモリ不況:湯之上隆のナノフォーカス(7)(4/4 ページ)
2018年、メモリ市場の成長に暗雲が立ち込め、メモリ不況が避けられない事態となった。アナリストらは、メモリの過剰供給による価格の下落を要因として指摘しているが、どうも腑に落ちない。そこで筆者は、Intelの10nmプロセスの遅れという点から、メモリ不況の要因を探ることにした。
プロセッサ不足とメモリの供給過剰
Gartnerによれば、2018年第2四半期のPC出荷台数は前年同期比1.4%増の6210万台となり、2012年第一四半期以来、約6年ぶりに四半期ベースでプラス成長に転じたという。ところが、前節で述べた通り、プロセッサが足りないのである。従って、せっかくPC出荷台数が増えそうな気配であっても、十分に生産できるとは限らない。すると、PC用DRAMとNANDフラッシュが行き場を失う。
これは、クラウドメーカーが猛烈な勢いで建設しているデータセンターに、すらりと並べるサーバも同様である。恐らく、サーバ需要は途轍もなく大きい。ところが、Intelが96%を独占しているサーバ用プロセッサも、供給不足になっている可能性が高い。
もしそうだとすると、クラウドメーカーの需要に見合った台数のサーバを製造することができない。すると、大量のサーバ用を当てにして製造した(またはこれから製造する)DRAMとNANDフラッシュが宙に浮いてしまうのである。
つまり、Intelのプロセッサの供給不足により、PC用とサーバ用を当てにして製造されたDRAMとNANDフラッシュが、予定通り使われず、その結果、市場にあふれてしまい、供給過剰となって価格下落を引き起こした、と推測できる。
メモリ市場は2020年に再爆発する
もし、Intelのプロセッサ供給不足が原因で、メモリの供給過剰と価格下落が起きているとしたら、以下が予測できる。
Intelが10nmプロセスを立ち上げ、さらに生産能力の増大を行って、プロセッサの供給不足を解消したら、PC市場も増大し、サーバ市場も再び急拡大する。すると、DRAMとNANDフラッシュの需要も、2017年ごろのように逼迫することになるだろう。
Intelの発表では、10nmの本格量産は、PCなどのコンシューマー向けは2019年下期、データセンター向けは2020年になるとのことである。従って、プロセッサの供給不足は2019〜2020年まで続くことになる。
その結果、Intelが10nmプロセスを立ち上げ、プロセッサの供給不足を解消するのは、東京オリンピックが開催される2020年になるだろう。従って、2020年に、メモリ市場は再爆発すると筆者は予測している。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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