市況見通しの悪い2019年 ―― 経営者が今、考えるべきこと:大山聡の業界スコープ(13)(2/2 ページ)
メモリ市況がボトムに向かって降下している中で、決してパッとしなそうな2019年。そんな中で、半導体メーカーや電子機器メーカー各社はどんなことに留意しながら戦略立案するべきなのだろうか。市況が好転するタイミングをひたすら待つだけで良いのだろうか――。
流れを払拭してくれるプラス要因は?
例えば今年のプラス要因として期待できる項目として、次世代無線通信「5G」関連の投資が挙げられる。具体的なアプリケーションがあるわけではなく、どの会社のどんなキーワードに着目したら良いのか、まだ漠然としている状態だが、「GAFA」*)に代表される大手クラウドサービス業者たちが5Gの活用を前提とした設備投資の手を緩めるとは思えない。幸い、DRAMもNANDフラッシュも供給過剰で単価が下落しているので、彼らにとってデータセンター向けの投資は効率が良いはずである。5Gを活用したサービス内容が徐々に具体化してくれば、それが市況をけん引するプラス要因として期待できるようになるだろう。
*)GAFA:Google、Apple、Facebook、Amazon。
一方、スマホやPCなど、個人消費に依存する市場には残念ながら期待が持てない。いずれも台数ベースでマイナス成長となる可能性があるので、2019年は前年以上にデータセンターや通信キャリアといったインフラ側に需要をけん引してもらう必要があるのだ。
こんなパッとしない市況において、半導体メーカーや電子機器メーカー各社はどんなことに留意しながら戦略立案するべきなのだろうか。市況が好転するタイミングをひたすら待つだけで良いのだろうか。
不況の時ほど出やすい「差」
具体的な戦略立案は、個々の企業の内情に依存するもので、このような紙面で論じるべきことではないかもしれない。しかし、見通しの悪い時、不況の時ほど、各社の戦略や考え方に大きな差が出やすく、その差が市況好転時の実績に現れる、という現象を筆者は何度となく目の当たりにしてきた。
かつて、電機業界の不況時に日系某社の社長が、
「不況そのものは好ましくないが、わが社はこれまで不況を乗り越える度にシェアを拡大してきた。だから今回の不況もチャンスと考えたい」
とコメントしていたことを思い出す。不況の時こそ顧客や市場のニーズを先取りし、自社に不足しているリソースを補うことが、好転時のスタートダッシュを可能にする、と言い換えても良いかもしれない。この企業は他社よりもその努力を行ってきたからこそ、シェアを拡大することができたのだろう。
2019年を「不況」と決めつけるわけではないが、どう見ても「好況」とは言い難く、特にメモリ市況に関して言えば「ボトムに向かって降下中」であることは間違いない。マクロ経済の見通しも悪いとなれば、多くの経営者は「経費はなるべく削減しよう」「潮目が変わるまで様子を見よう」と考えたくなるのではないだろうか。
しかし、良い人材を確保したい、5Gを活用した事業を立ち上げたい、などといった狙いがあれば、好況時よりも今のような市況時の方が、多くの選択肢から選べるということも事実である。
日本経済は長期間に渡ってデフレに悩まされ続けてきたが、この市況にドップリと浸かり込んだような企業は、概して決断が遅い。急ぐ必要はない、様子を見よう、という姿勢が染み着いていて、「早く決断しないと売り切れる、値上がりする」というインフレ型市場に上手く対応できないことが多いのだ。今回のような市況の局面でも、具体的な戦略を持てずに経費を削減するだけ、という企業が少なからず存在するだろう。
そんな中で、「わが社は違うぞ」という経営陣もおられると思う。いや、いてくれないと困る。何が起きるか分からない市況の中で、何かを起こそうする企業の奮起に期待しながら、各社の動向に注目したい。また「何かを起こそう」とする企業に対しては、何らかのお手伝いをさせていただきたい、というのが筆者の本音でもある。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- メモリ市場予測、ボトムは2019年中盤か
今回は、これからのメモリ市況を占う。サーバ/データセンター、PC/スマホ、それぞれのメモリ需要のこれまでを振り返りながら、これからどうメモリ市場が動いていくか予想する。 - もっと積極姿勢を見せてほしい日系パワー半導体メーカー
今回は、パワーデバイス市場について述べてみたいと思う。というのも、2018年11月26日、デンソーがInfineon Technologies(以下、Infineon)に出資すると発表したことが、筆者としては非常に気になったからである。 - 世界半導体市場規模、2019年は2.6%成長へ
WSTS(World Semiconductor Trade Statistics:世界半導体市場統計)は2018年11月27日、2018年秋季半導体市場予測を発表した。同予測によると、2018年の世界半導体市場規模は前年から15.9%成長し4779億3600万米ドルになり、2019年には4901億4200万米ドル(2018年比2.6%増)に成長するという。 - “余計なもの”って何? 「Mate 20 Pro」の疑惑を晴らす
Huaweiの2018年におけるフラグシップ機「Mate 20 Pro」。この機種には、“余計なもの”が搭載されているとのうわさもある。本当にそうなのだろうか。いつものように分解し、徹底的に検証してみた。 - 日系大手電機メーカー8社の今後を占う
日系各社は中長期的な戦略を立案する上でさまざまな課題を抱えている企業が多いように思う。経営陣と現場のコミュニケーションが十分に取れていないことが原因ではないか、と思われるフシが散見されるのだ。電機大手各社を例にとって、過去10年間の変遷を見ながら、各社がどのような経営を行ってきたのか。そして、今後の見通しはどうなのか、について考えてみたい。 - 2019年におけるAIの動向はどうなるのか
ここ1〜2年の間に、人々は随分AI(人工知能)について語るようになった。そこで、2019年におけるAIの動きについて予測してみたいと思う。