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米中ハイテク戦争の背後に潜む法律バトル湯之上隆のナノフォーカス(8)(4/4 ページ)

激化の一途をたどる米中ハイテク戦争。実は、これは“法律バトル”でもある。本稿では、中国の「国家情報法」および米国の「国防権限法2019」を取り上げ、これら2つがどのようにハイテク戦争に関わっているかを解説する。

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「国防権限法(NDAA2019)」が与えるインパクト

 この法律を簡単に言うと、「米政府機関は、HuaweiやZTEなどの製品を買ってもいけないしサービスを受けてもいけない。また、米政府機関と何らかの取引のある企業は、HuaweiやZTEなどの製品を買ってもいけないしサービスを受けてもいけない。これらの企業と何らかの取引のある企業も、HuaweiやZTEなどの製品を買ってもいけないしサービスを受けてもいけない」ことになる。

 筆者が理解したことを、具体的に以下に示そう。

(1)米国政府機関としては、連邦政府の省以外に、陸海や空軍、独立行政組織(国家情報長官、CIA(中央情報局)、NASA(米国航空宇宙局)、環境保護庁など)、連邦政府100%所有する企業約20社が含まれており、非常に幅が広い。これら全ての組織や企業は、HuaweiやZTEなどの製品を買ってもいけないしサービスを受けてもいけない。

(2)次に、上記の米政府機関と何らかの取引のある企業は、HuaweiやZTEなどの製品を買ってもいけないしサービスを受けてもいけない。例えば、エレクトロニクス関連企業では、PCやサーバを提供しているDellやHP、スマホを提供しているAppleなどは、その対象になる。エレクトロニクスだけでなく、米政府機関に制服を提供しているアパレル企業までも対象となる。

(3)さらに、米政府機関に取引のあるDell、HP、Appleなどのエレクトロニクス企業に、プロセッサやメモリを供給しているIntel、Micron、TSMCなどの半導体メーカーも、その対象になる可能性がある。

(4)米政府機関と同盟国の日本政府は2018年12月10日に、サイバーセキュリティ対策推進会議を首相官邸で開き、各府省庁で使用する情報通信システムに関し、悪意ある機能が組み込まれた機器を調達しないことを申し合わせ、同日、菅義偉官房長官が記者会見で「情報の破壊や情報システムの停止など悪意のある機能が組み込まれた機器を調達しないことは極めて重要だ」と述べた(日経新聞12月10日)。この日本政府の動きは、「国防権限法」に何らかの影響を受けた可能性がある。

(5)その3日後に、ソフトバンクがHuaweiとZTE製の通信基地局を、NokiaやEricssonに置き換えることが報じられた(日経新聞12月13日)。記事によれば、ソフトバンクが2015〜2017年度に調達した基地局の総額は767億円で、このうちHuawei製の基地局は206億円、ZTE製は35億円だった。これを全て、欧州製に切り替える。これは、「米国防権限法」の影響によるものであると考えられる。

米国の「国防権限法(NDAA2019)」の目的とは

 米国の「国防権限法(NDAA2019)」の影響は、どこまで広がるのか、計り知れない。世界中を見渡した時、米政府機関に何のつながりもない企業や組織は皆無だからだ。従って、「国防権限法(NDAA2019)」の目的は、HuaweiやZTEなどの中国企業を全世界から排除することを目的としていると考えざるを得ない。

 中国の「国家情報法」も恐ろしい法律だと思うが、米国の「国防権限法(NDAA2019)」もとんでもない法律である。なぜ、このような法律が成立してしまったのか、理解に苦しむほどだ。要するに、米中ハイテク戦争とは、言い換えれば、“法律バトル”と言えるのではないだろうか。

 中国の「国家情報法」は既に施行されている。また、米国の「国防権限法(NDAA2019)」は2019年8月13日から一部が施行され、2020年8月13日には全ての法律が効力を持つことになる。あなたの会社のビジネスは大丈夫か? 可及的速やかに対策を講じる必要がある。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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