最高レベルの熱放射多層膜設計に機械学習を適用:約80億の候補から最適構造を探索
物質・材料研究機構(NIMS)は、東京大学や新潟大学、理化学研究所と共同で、機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって、世界最高レベルの熱放射多層膜を設計し、その実証実験にも成功した。
開発したナノ構造のQ値は200に迫る
物質・材料研究機構(NIMS)は2019年1月、東京大学や新潟大学、理化学研究所と共同で、機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって、世界最高レベルの熱放射多層膜を設計し、その実証実験にも成功したと発表した。
熱放射現象は、赤外線センサーや熱光起電力発電といったエネルギーデバイスへの応用が期待されている。この熱放射エネルギーを無駄なく利用するためには、有用な波長帯で狭帯域の熱放射スペクトルを持つ材料を開発することが急務となっている。
ところが、狭帯域熱放射を実現する多層膜(メタマテリアル)の設計を行う場合、膨大な候補物質の中から最適な構造を得るためには豊富な経験が必要になり、新たな材料を開発するのは容易ではなかったという。
こうした中で研究グループは、機械学習(ベイズ最適化)と熱放射物性計算(電磁波計算)を組み合わせることで、熱放射性能を最大にするメタマテリアル構造の設計手法を確立した。その手法とは、最初に候補となる数百個の構造をランダムに選択して、それぞれの放射率を計算する。その結果を基に、ベイズ最適化によって熱放射性能指数が見込める数百個の構造を次の候補に決め、これらの熱放射物性を計算する。このように候補選択と熱放射物性計算を繰り返し行い、データを数百個ずつ増やしていきながら、最良の熱放射性能指数を持つ構造を同定する。
研究グループは、開発した手法を用いて多層膜構造を設計した。80億通りの候補構造の中から得られた最適構造は、半導体材料(Ge)と誘電体(SiO2)の厚み0.2〜1.0μmの薄膜が、非周期的に6〜8層並ぶ非直感的なナノ構造である。今回は、ターゲット波長を3つ(5μm、6μm、7μm)に設定し、機械学習で最適化を行った。この結果、熱放射性能を大幅に改善できる可能性が高いことを示した。
研究グループはこれらの研究成果を基に、メタマテリアル構造を実際に作製して熱放射スペクトルを計測した。その結果、極めて狭帯域の熱放射を実現できることが分かった。熱放射スペクトルの狭帯域化を示すパラメーターのQ値は200に迫るという。
開発した設計手法は、さまざまな熱放射メタマテリアルの構造設計に適用することが可能だという。また、計算による評価が行えれば、異なる物性に対しても今回の手法を適用することがでる。研究グループは、他分野におけるナノ構造の最適化にも活用できるとみている。
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