Armに立ちはだかる「RISC-V」という壁:今度の相手は手ごわい?(2/2 ページ)
現在、RISC-VやMIPSなどのオープンソースアーキテクチャの勢いが増してきたことにより、マイクロプロセッサ業界に変化の風が吹いている中、Armが置かれている環境に変化が生じてきている。
ライセンス収入の減少を予測していたArm
筆者がArmの組み込み/車載部門の戦略担当バイスプレジデントを務めるTim Whitfield氏に話を聞いたとき、同氏は、「当社は、プロセッサコア以外にも多くのIPブロックやツールを提供している」と主張していた。Armは、競合技術や破壊的技術(従来の価値基準を覆すような革新的な技術)の台頭を重く受け止め、ソフトバンクに買収されてからは特に、オープンソースのライバル技術に対抗することに注力してきた。同社は新たなビジネスモデルと市場を模索し、顧客のニーズに応える新しいコアを発表している。
Armは多くの開発コストを投じており、当然ながら、それを回収する必要がある。アーキテクチャの設計から製品投入までは、最大8年を要するという。英国のCambridgeという賃貸料の高い場所で最大5000人のエンジニアリングチームが14ものアーキテクチャを維持しているため、コストが増大するのは当然だ。「Arm926」コアの開発には85人年、「Arm7」には約27人年かかったという。
一方、Armのライセンス収入は2014年以降、横ばいで推移している。2018年12月を末日とする2018年第3四半期のライセンス収入は、2017年同四半期の1億9000万米ドルから34%減となる1億2500万米ドルだった。これは明らかに、「Cortex-M」プロセッサをライセンス無償で提供する、同社独自の「DesignStart」プログラムの影響である。同四半期には38社が「DesignStart Pro」ライセンシーに署名している。
ソフトバンクの決算報告によると、2018年12月31日までの9カ月間のArmのライセンス収入は、前年と比べて27.7%減少したという。ソフトバンクは、「その要因の一つは、2018年前半に中国で新しい契約の締結が遅れたことにある」としている。この9カ月間に締結されたライセンス収入は、2017年同期の4億6200万米ドルから3億3400万米ドルに減少している。
コストの上昇と収益の減少を踏まえ、Armはライセンス料とロイヤリティーの仕組みを検討する可能性がある。だが、それは顧客を混乱させる危険があるため、別の方法の検討も必要かもしれない。
Armは間違いなく、ライセンス収入が減少することを予想していた。同社はこの流れにあらがうべく、SaaS(Software as a Service)方式で収益を確保するために、IoT(モノのインターネット)分野で数件の大型買収を実施してきた。
最終的に、多くのIPベンダーは、オーナーシップのトータルコストと開発コストの回収に基づいて価格を設定している。そうしたビジネスモデルでは、全ての顧客が同じライセンス料を支払うべきだと主張する人もいるかもしれないが、それは正しい考え方ではない。
資金を十分に持っている企業はライセンスを取得でき、コアを自由にカスタマイズできる。一方で、DesignStartのようなプログラムを使用している小規模のプレイヤーは、費用はかなり抑えられるかもしれないが、その分、設計の自由度は低い。
Armの独壇場はそろそろ終わる?
「Arm、SiFive、Andesなど、いずれのCPUコアを使用するにしろ無料ではない。ビジネスなのだから、売り上げは上げなくてはならない」と、Armの幹部は主張している。
RISC-VのIPを提供する、あるベンダーのCEOは、「Armの独壇場は、もうそろそろ終わりがくるだろう」と述べた。同氏は今後5年以内には、Armの現在のビジネスモデルには何らかの変化が訪れると予測している。
Armの現在のアプローチでは、よりオープンなアーキテクチャに比べ、柔軟性が限られているということだ。コストとTime to Marketに対する要求が日に日に厳しくなる中、ライセンス契約の交渉に何カ月も費やすことを望む人はいないだろう。
筆者が思うに、Armは、単に技術的進化を遂げるだけでなく、オープンアーキテクチャによる“IPの民主化”の動きと、どう競合するかについて、根本的に再考すべきではないだろうか。Armは過去に、コアIPベンダーとの競争に勝ち抜いてきたかもしれないが、今回は、それほど簡単に勝てる相手ではないだろう。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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