スイッチング遷移速度を一定に保つ
東芝は2019年2月、モーター駆動用のパワー半導体を高い効率でスイッチングするための駆動回路を開発したと発表した。開発したフィードバック技術を用いることで、この技術を用いない駆動方法に比べて、スイッチング時の電力損失を低負荷時に25%、常温時で20%も、それぞれ低減できることを確認した。
モーターは、自動車や鉄道、電化製品などに数多く搭載されている。モーターを駆動するには、パワー半導体を用いて電流や電圧を制御し、いかに効率よく回転させるかが重要となる。パワー半導体をスイッチングさせる時に、オフからオンの状態に遷移する速度(遷移速度)を早くすれば、消費電力を少なくできる。しかし、遷移速度が早すぎる場合にはノイズが発生し、機器の誤動作を引き起こす可能性がある。
このため、一般的には遷移速度の上限を設定しておき、ノイズの量を抑えて誤動作を防ぐ対策が用いられている。ところがこの方法だと、パワー半導体の温度や負荷電流などが変化した場合には遷移速度が遅くなり、消費電力が増加するという課題があった。
これに対して従来は、パワー半導体の電圧を検出し、遷移速度を一定に保つフィードバック回路を採用するなどして電力損失を低減していた。ただ、ダイオードから発生する逆回復電流などの要因で遷移速度が変化する場合は、その対応が難しかったという。
そこで東芝は、逆回復電流が発生しても遷移速度を一定に保つことができるフィードバック回路を開発した。この駆動回路は、あるスイッチングにおける電圧の遷移速度を保持し、次のスイッチング時に制御を行うフィードバック機能を搭載している。これによって、遷移速度が逆回復電流の影響を受けて変化する状況でも、適切に制御することが可能だという。さらに、大小異なる2値の抵抗を採用し、これを切り替える方式としたことで、回路構成もシンプルとなった。
東芝は今回、開発したフィードバック回路を搭載したパワー半導体をCMOSチップに集積化することに成功、小型化とコスト節減に加え、電力損失の低減を実現した。
今回の研究成果は、半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2019」(2019年2月17〜21日、米国カリフォルニア州サンフランシスコ)で、2月19日に発表した。
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