東北大ら、周波数(色)の「量子もつれ」を発生:大容量量子情報処理の実現に期待
東北大学と電気通信大学の研究グループは、周波数(色)の「量子もつれ」を有する光子を直接発生させる技術を開発した。光の周波数を用いた大容量量子情報処理システムの実現に重要な役割を果たすとみられる。
パラメトリック下方変換方式を採用
東北大学学際科学フロンティア研究所の金田文寛助教と電気通信研究所の枝松圭一教授および、電気通信大学の清水亮介准教授らによる研究グループは2019年2月、周波数(色)の「量子もつれ」を有する光子を、直接発生させる技術を開発したと発表した。光の周波数を用いた大容量量子情報処理システムの実現に重要な役割を果たすとみられる。
偏光や時間などが互いに相関した状態の量子もつれを発生させる技術は、既に確立されているという。これに対し、周波数または色における量子もつれを発生させるためにはこれまで、複雑な光学系や損失の大きい光フィルターを用いる必要があり、実用化に向けては課題もあったという。
研究グループは今回、周波数の量子もつれ光子発生に、「パラメトリック下方変換」と呼ばれる手法を採用した。パラメトリック下方変換とは、非線形光学結晶にレーザー光が照射されると、レーザー光内の1光子が2つの光子のペアに分裂する現象である。ところが従来手法だと多くの場合、位相整合条件によって複数の光子状態の相関である量子もつれは発生しないという。
これらの課題を解決するため研究グループは、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶内の自発分極を、異なる2つの周期で反転させた領域を作製した。その上で、2つの異なる位相整合条件を人工的に発生させ制御することによって、2つの異なる領域で発生しうる光子のペアがもつ偏光と周波数が、互い違いに相関を持つ量子もつれ状態を直接発生させることに成功した。
研究グループは、これらの特殊な結晶から発生した光子のペアの2光子干渉を測定した。この結果、発生光子の周波数差(11.5THz、周期0.87ピコ秒)による、うなりを観測することができ、量子もつれの存在を実証した。発生した周波数の量子もつれと、これまで用いられてきた偏光「量子もつれ」状態との決定論的な相互変換も実証した。
研究グループは今回の成果について、「開発した周波数の量子もつれ光子発生方法は、簡便かつ低損失である。多数の異なる周波数間の量子もつれ発生へと拡張が可能なため、光の周波数を用いた大容量量子情報処理技術の実現に向けて、重要な役割を果たす」とみている。
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