Huawei製品の締め出し、サプライチェーンに深刻な影響:禁輸措置は根本的な解決ではない(3/3 ページ)
ネットワーク機器やスマートフォンを手掛ける中国メーカーHuawei Technologiesは現在、米国および欧州市場から同社製機器が追放されるかもしれないという問題に直面し、論争を引き起こしている。もしHuaweiが、大きな損失を抱えることになれば、同社のサプライチェーンも痛手を負うことになるだろう。
Huaweiに大きく依存するサプライヤー
Huaweiのサプライヤーのうち、同社の成功に大きく依存している企業は少なくとも2社存在する。Financial Timesによると、カメラレンズや指紋読み取り装置を手掛ける中国のO-Film Techは、2018年第3四半期における売上高全体の約4分の1に相当する約4億4400万米ドルを、Huaweiに依存しているという。また、米国カリフォルニア州に拠点を置く集積回路メーカーNeoPhotonicsも、同四半期における売上高全体の47%をHuaweiに頼っている。Huawei製品の不買運動は、破壊的な影響を及ぼす恐れがあるのだ。
Huawei自体は、米国のサプライヤーとの取引が打ち切られたとしても、単に収益が落ち込むだけだろう。Huaweiの国内調達の選択肢は、社内のチップ事業以外にも拡大している。IHS Markitによると、中国のBOE Technology GroupとChina Starは世界LCD(液晶ディスプレイ)ランキングで順位を上げている。Huaweiは、ジャパンディスプレイ、LG Display、BOEから年間2億枚のディスプレイパネルを購入している。
中国が欧米諸国のHuaweiの扱いに対する報復を決定した場合、その影響はさらに多くの米国メーカーに波及すると予想される。米国企業は中国の製品とサービスに大きく依存している。Appleの製品は中国で組み立てられている。この他、Cisco SystemsのルーターやDellのコンピュータ、Ford Motorのワイヤハーネスは全て、中国から部品を調達している。このように、東西のサプライチェーンは深く絡み合っている。
通信機器サプライヤーは、どういった状況であろうと、需要に対応して製品展開を進める。Huaweiは既に、アジアにおける5Gの展開に深く介入しており、サプライヤーもそれを必要としている。Nikkei Asian Reviewは、「アジア諸国にとってHuaweiの技術を全く使わずに開発を進めるのは困難だ」と指摘している。これは日本にも当てはまる。日本では近年、サプライヤーとしても顧客としても中国企業が存在感を増している。
IHS Markitのエグゼクティブディレクタで通信業界アナリストのStephane Teral氏は、Nikkei Asian Reviewの中で、「通信機器の競合企業は、先進諸国がHuaweiの採用を見合わせていることをチャンスと考えるだろう。だが、これほど大規模なボイコットは前代未聞で、機器サプライチェーンは緊迫している。さらに多くの国々がHuawei製品の使用を禁止した場合、Huaweiに代わってデバイスを適宜提供できるメーカーがないため、製品が枯渇することが懸念される」と指摘している。
禁輸措置は根本的な解決法ではない
さらに言えば、禁輸措置は東西間の根本的な問題の解決にはならない。例えば、米サプライマネジメント協会(ISM)のCEO(最高経営責任者)を務めるTom Derry氏は、「2000億米ドル相当の半導体など、より多くの商品を米国から購入するという中国の申し出は、問題の本質とは関係がないことだ」と述べている。この取引によって貿易収支は一時的に調整されるかもしれないが、ネットワークセキュリティやIPの盗用、公正な市場参入に対する米国の懸念を解消するものではない。Derry氏は、「国際収支赤字には、取引による対処ではなく構造的な対処が求められる。禁輸措置では根本的な問題に対処できない」と指摘している。
サプライヤーは今後ますます大規模市場と大口顧客に集中し、買い手がほんの数社に集約されると予想される。Gartnerによると、2018年世界半導体市場では、上位10社の購入企業が同市場の40.2%を購入したという。この数字は、前年度の39.4%から上昇している。つまり、これら顧客企業のうち1社が“くしゃみ”をすれば、サプライチェーンが風邪をひくことになるわけだ。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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