東北大学、室温でリチウム超イオン伝導を実現:全固体電池に適用可能な材料開発
東北大学の研究グループは、リチウムイオンが高速で伝導する新たなリチウム超イオン伝導材料を開発した。
リチウム負極に対して高い安定性を示す
東北大学金属材料研究所の金相侖(キム サンユン)助教と同大学材料科学高等研究所の折茂慎一副所長らによる研究グループは2019年3月、リチウムイオンが高速で伝導する新たなリチウム超イオン伝導材料を開発したと発表した。全固体電池に適用することが可能である。
研究グループは、錯体水素化物を中心にリチウム超イオン伝導材料の開発に取り組んできた。代表的な材料としては、ホウ素と水素が結合した水素クラスタ(錯イオン)とリチウムイオンから構成されるLiBH4がある。
錯体水素化物は、錯イオンの不規則性を高めることによって、リチウム超イオン伝導を誘起できるのが特長である。ただし、これを実現するには材料の温度を100℃以上にしなければならなかった。室温付近だと錯イオンが規則正しく配列するため、イオン伝導率は0.01mScm-1まで低下することが分かっている。
研究グループは今回、不規則性の高い錯イオンである[CB9H10]-と[CB11H12]-の2種類を選び、これらを適切に混ぜ合わせることで、錯イオン自体の不規則性をさらに高めた。
開発した錯体水素化物リチウムイオン伝導材料は、0.7Li(CB9H10)‐0.3Li(CB11H12)である。このリチウムイオン伝導率は25℃で6.7mScm-1である。この数値は、液体電解質の伝導率に匹敵するという。
開発した材料とリチウムとの界面における、リチウムの動き易さも測定した。この結果、界面抵抗は0.78Ωcm2と極めて小さく、リチウムは動きやすいことが分かった。このことは、0.7Li(CB9H10)‐0.3Li(CB11H12)が、リチウム負極に対して高い安定性を示すものだという。
研究グループは、0.7Li(CB9H10)‐0.3Li(CB11H12)を「固体電解質」に、リチウムを「負極」にそれぞれ用いて全固体電池を作製し、25℃で安定に動作することを確認した。続いて、放電条件を50℃、20分として充放電試験を行った。この結果、2500Whkg-1と極めて高いエネルギー密度を持つことが分かり、電池の長時間使用が可能であることを実証した。
研究グループは今後、リチウムイオン伝導率さらに高めたリチウム超イオン伝導材料の開発などに取り組む。
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