東北大学、FeSn薄膜で柔軟なホール素子を実現:磁石の異常ホール効果を活用
東北大学金属材料研究所は、鉄スズ(FeSn)磁石の微結晶薄膜を室温で作製し、これがフレキシブルな磁気センサー(ホール素子)として利用できることを実証した。
曲げた状態でセンサー素子が正常に動作
東北大学金属材料研究所の藤原宏平准教授と佐竹遥介大学院生、塩貝純一助教、関剛斎准教授および、塚粼敦教授らによる研究グループは2019年2月、鉄スズ(FeSn)磁石の微結晶薄膜を室温で作製し、これがフレキシブルな磁気センサー(ホール素子)として利用できることを実証したと発表した。
磁気センサーは、半導体の正常ホール効果を利用したホール素子が一般的である。これに対して最近は、磁石の異常ホール効果を活用した新型ホール素子も注目されている。ただ、新型素子は磁場を電気信号に変換する性能に劣るという。このため、その応用はバルク単結晶や低温環境での利用にとどまっていた。磁場とホール電圧が単純な比例関係にないことも課題となっていた。
そこで研究グループは、室温で大きな異常ホール効果を示すことが報告されている「Fe3Sn2」に着目。FeとSnの組成を調整しながら、スパッタリング法による薄膜作製に取り組んだ。この結果、微結晶性のFeSn薄膜において、バルク単結晶に匹敵する大きな異常ホール効果を観測することができたという。
この薄膜は、磁石の性質として薄膜面内に磁化容易軸を持つが、薄膜面に垂直な磁場が与えられたことで、その磁場に比例した磁場−ホール起電力特性を示すことも分かった。しかも、ホール素子としての感度係数は、−75〜125℃の広い温度範囲において、プラスマイナス数パーセントのわずかな変動にとどまることも明らかになった。このことは、「金属強磁性体薄膜の異常ホール効果が実際に応用できる」ことと、「素子単体で高い温度安定性がある」ことを示す値だという。
さらに、基板材料として高分子PENシート(ポリエチレンナフタレートシート)を用いてホール素子を作製し、その動作を検証した。この結果、ホール素子としての特性は維持されていることを確認し、曲げた状態でもセンサー素子が正常に動作することを実証した。
研究グループは今後、感度係数のさらなる向上など、特性の改善に取り組む計画だ。FeSn薄膜は安価で毒性も低く、量産性にも優れているという。このため、異常ホール効果を用いた新型ホール素子の研究開発と、その応用が加速するとみられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東北大学ら、新構造の回転角度センサーを開発
東北大学大学院工学研究科の中村健二教授と松尾製作所らの研究グループは、新構造の駆動モーター用回転角度センサーを開発した。次世代のZEV(Zero Emission Vehicle)などに向けたもので、主要構成部材である電磁鋼板の使用量を大幅に節減することで、車両の軽量化を可能とした。 - 東北大、超電導体を利用し環境発電機能を実証
東北大学金属材料研究所は、第二種超電導体の渦糸液体状態を利用した環境発電機能を実証した。微弱な環境揺らぎからの発電や、微弱信号を検出する素子への応用が可能だという。 - 東北大ら、Fe-Ga単結晶製造と加工技術を開発
東北大学多元物質科学研究所と金沢大学、福田結晶技術研究所の研究チームは、振動発電デバイスのコスト削減を可能にする単結晶製造技術および、板状に加工する技術を開発した。 - 東北大、AlB2で線ノード型ディラック粒子を発見
東北大学は2018年7月、2ホウ化アルミニウム(AlB2)が「線ノード型ディラック粒子」という特殊な電子状態を持つ物質であることを発見した。 - 東北大ら、周波数(色)の「量子もつれ」を発生
東北大学と電気通信大学の研究グループは、周波数(色)の「量子もつれ」を有する光子を直接発生させる技術を開発した。光の周波数を用いた大容量量子情報処理システムの実現に重要な役割を果たすとみられる。 - 磁力の弱いナノ薄膜磁石を磁気のない金属から作製
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の鈴木和也助教と水上成美教授らの研究グループは2018年12月、磁気のない金属からナノ薄膜磁石(マンガンナノ薄膜磁石)を作ることに成功したと発表した。高集積MRAM(磁気抵抗メモリ)を実現するための材料開発に新たな視点を与える研究成果だとする。