ハイブリッドキャパシターの開発に成功:高い入出力とエネルギー密度を両立
科学技術振興機構(JST)は、ナノ結晶化チタン酸リチウムを用いた「ハイブリッドキャパシター」の開発に成功したと発表した。
燃費や電費を改善
科学技術振興機構(JST)は2019年3月、ナノ結晶化チタン酸リチウムを用いた「ハイブリッドキャパシター」の開発に成功したと発表した。電気二重層キャパシター(EDLC)と二次電池の特長を兼ね備えた蓄電デバイスの実用化を可能にする技術である。
今回の成果は、JSTから開発委託を受けた日本ケミコンが、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の直井勝彦教授らによる研究成果を基に開発したものである。
自動車のエネルギー回生システムなどに用いられているEDLCは、大電流での入出力は可能だが、体積当たりのエネルギー密度が低いため、これまではユニットサイズを大きくするなど工夫が必要であった。
そこで今回、エネルギー密度を従来に比べて大幅に向上するため、キャパシター向けに最適化したチタン酸リチウムを負極に用いた「ハイブリッドキャパシター」を開発した。薄膜塗工電極などの技術によりキャパシターセルの内部抵抗を低減することにも成功した。
開発したキャパシター用チタン酸リチウムは、1次粒子サイズが数十ナノ級の微細構造である。結晶端部には高導電性のマグネリ相酸化チタン(Ti4O7)を形成し、導電性を高めた。合成した負極用ナノ結晶化チタン酸リチウムのCレート特性を評価したところ、高い入出力特性を備えていることが分かった。
開発したナノ結晶化チタン酸リチウムを用いて、巻回構造セルのハイブリッドキャパシターを試作し、電気容量と内部抵抗を測定した。この結果、低抵抗で大容量を実現できることが分かった。体積エネルギー密度は従来品の191%に相当するという。また、充放電によるセルの容量劣化は10万サイクル後も10%以内と小さく、長期間にわたり特性が維持されることを確認した。
JSTでは、開発したハイブリッドキャパシターを自動車の減速エネルギー回生システムに組み込むことで、燃費や電費を改善できるとみている。各種電装機器のピークアシストやバックアップ用自立電源などの用途にも期待している。
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