理研ら、半導体量子ビットの量子非破壊測定に成功:エラー訂正回路の実装を可能に(2/2 ページ)
理化学研究所(理研)とルール大学ボーフム校らの国際共同研究グループは、電子スピン量子ビットの量子非破壊測定に成功した。
従来の量子ビット読み出し手法と比較
国際共同研究グループは、非破壊測定による結果との整合性を検証するため、従来の量子ビット読み出し手法も行い比較した。この結果、1回の測定だと同程度のエラー率であることが分かった。
量子非破壊測定を繰り返し行うと、その回数が増えるほど量子ビットの測定精度を向上させることが可能なことも分かった。測定結果を統計処理した結果、63%であった測定精度は89%まで向上した。このことは、エラー率が37%から11%に低減したことになる。
さらに、量子非破壊測定を応用し、量子ドット中で孤立した電子スピン量子ビットの時間発展を計測した。電子スピン量子ビットを意図的に操作しなくても、フォノンの自然放出と吸収により、電子スピン量子ビットが自発的に反転を繰り返す「量子跳躍」の様子を確認した。
測定したスピン反転の時間間隔から、電子スピン量子ビットの寿命は1.5ミリ秒以上あることを確認した。この数値は量子非破壊測定に必要な5マイクロ秒と比べると300倍も長いため、量子非破壊測定は実用上有用であることが分かった。
補助量子ビットもう一つ追加すれば、エラー検出回路を実現できる
国際共同研究グループによれば、電子スピン量子ビットの量子非破壊測定は、量子エラー訂正回路を実装するための大きな一歩となるもので、補助量子ビットをもう一つ追加することで、エラー検出回路を実現できるという。
ただ、実用化の視点で見れば、量子ビットの測定精度89%(エラー率11%)は十分とはいえないという。開発が進むシリコン量子ドットに今回の研究成果を適用すれば、最大99.96%の測定精度を実現できるとみている。
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