東工大、高効率で高輝度の緑色LED用材料を開発:グリーンギャップの問題を解決
東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の平松秀典准教授らによる研究グループは、室温で緑色発光するペロブスカイト硫化物の新半導体「SrHfS▽▽3▽▽」を開発した。
適切な元素置換で、p型/n型半導体の電気特性も制御
東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の平松秀典准教授らによる研究グループは2019年4月、室温で緑色発光するペロブスカイト硫化物の新半導体「SrHfS3」を開発したと発表した。適切な元素置換で、p型/n型半導体の電気特性や光学特性を制御することが可能である。
青色や赤色のLEDには主に、InGaN系(窒化物)やAlGaInP系(リン化物)のIII-V族半導体材料が用いられている。ところが、これらの材料は緑色域で光変換効率が大きく低下する、「グリーンギャップ」が問題となっていた。
そこで研究グループは、p型とn型半導体の両方を制御可能な上、緑色を高い効率で発光する新材料の開発に取り組んだ。開発に当たっては、「高対称性結晶中の非結合性軌道を利用する」ことと、「バンドの折り畳みを利用した直接遷移型バンドギャップを有する結晶構造の選定」を化学設計の指針とし、候補となる材料のスクリーニングを行った。
これらの設計指針を基に選定したのが、斜方晶SrHfS3の結晶構造とバンド構造である。SrHfS3は、立方晶ペロブスカイトの格子定数a、b、cをそれぞれ√2×√2×2倍した長周期構造を持つ。第一原理計算により求めたSrHfS3のバンド構造は直接遷移型で、効率の高い光の吸収と発光を見込む。また、硫黄(S)のp軌道とハフニウム(Hf)のd軌道で形成される価電子帯上端と伝導帯下端は、真空準位から見てそれぞれ‐6から‐4eV付近に位置し、いずれもp型/n型ドーピングに適した準位となっていることが分かった。
研究グループは、このSrHfS3試料を固相反応法で合成した。リン(P)とランタン(La)を、それぞれ硫黄(S)とストロンチウム(Sr)の位置に適量で置換したところ、p型とn型の電気伝導性を制御できることが実証された。フォトルミネッセンス(PL)測定でも、室温で目視できる明るい緑色発光(波長は520nm)を観測した。
SrHfS3の電子構造と電気・発光特性。左は斜方晶系の結晶構造と直接遷移型のバンド構造。中央上は電気伝導度、同下はゼーベック係数とドーピング濃度の関係、右は室温における緑色発光スペクトルと実際の写真 出典:東工大
これらの結果から、SrHfS3は緑色発光ダイオード向け半導体材料として有望であることが分かった。今後、単結晶薄膜を用いたpn接合を作製し、効率をより高めた次世代緑色LEDを実現する計画である。
今回の研究成果は平松氏の他、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の飯村壮史助教(研究当時)、細野秀雄教授(研究当時)、物質理工学院材料系の半沢幸太大学院生(研究当時は博士後期課程3年)らのグループによるものである。
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