「EVや産業用途でGaNを見直すべき」 GaN Systems CEO:PCIM Europe 2019(2/2 ページ)
パワーエレクトロニクスの展示会「PCIM Europe 2019」で、会期3日目の基調講演に登壇したGaN SystemsのCEOを務めるJim Witham氏。同氏は、EV(電気自動車)やハイパワーの産業機器で、GaNパワーデバイスを見直すべきだと強調する。
トラクションインバーターに使える大電流GaNデバイスも登場
講演後、EE Times JapanはWitham氏に個別にインタビューを行う機会を得た。
EE Times Japan(以下、EETJ) 基調講演で、モーターやデータセンターでのGaNパワーデバイス採用について説明していましたが、これらの分野で実際にGaNが採用され始めているのでしょうか。また、GaNの市場規模は、まだまだ小さいですが、どの分野でGaNパワーデバイスの採用が進むと考えていますか。
Jim Witham氏 データセンターではGaNを採用した事例があるが、モーターは、まだだ。GaN Systemsのターゲット分野は民生機器、データセンター、再生可能エネルギー、ファクトリーオートメーション/モーター、電気自動車(EV)だが、最初の3つの分野に関しては既に顧客がいて、ある程度の実績がある。反対に、モーターとEVの分野は非常に保守的で、GaNが本格的に採用され始めるようになるまでには相当時間がかかるだろう。
EETJ GaNパワーデバイスの信頼性などを懸念しているのでしょうか。
Witham氏 というよりも、単にGaNが、パワーデバイスとしてはまだ新しいからだろう。新しいデバイスの採用に対してためらいがあるというのは、理解できる。信頼性については、われわれも数多くの信頼性試験を行い、「GaNパワーデバイスは十分な信頼性を備えている」と断言できるだけのデータをそろえている。
当社のGaNトランジスタの性能はスーパージャンクションMOSFETに近いので、寄生インダクタンスとゲート駆動電圧の2点だけ注意すれば、設計上の課題もほぼないはずだ。モーターとEVの分野では、どのメーカーが最初にGaNを採用するのか、互いに様子を見ているような状況なのだろう。
EETJ EVでは、SiCパワーデバイスの採用は進んでいるという印象があります。
Witham氏 EVでは、特にトラクションインバーター向けのようなハイパワーのデバイスとしては、IGBTを使うことが一般的で、次世代の候補としてSiCがある。GaNは使えないというのが共通の認識だった。トラクションに使える大電流のGaNパワートランジスタが、これまではなかったからだ。
われわれは、それを打破できる製品を、今回のPCIM Europeに合わせて発表した。耐圧650Vで、ドレイン-ソース間電流が150Aの製品だ。この製品を並列接続することで、トラクション向けに十分な最大225kWのインバーターを容易に構成できるようになる。つまり、IGBTやSiCだけでなく、GaNもEV向けとして選択肢に加えられるということだ。
自動車やハイパワーの産業機器の業界は、GaNパワーデバイスを見直すべきではないか。GaNはSiよりも優れたパワー半導体の特性を持ち、SiCよりも安価だ。SiCではいつも量産が課題として挙がるが、標準的なSiデバイス製造プロセスを適用できるGaNには、その心配もない。
EETJ GaNがEVの分野で圧倒的な優位性を実現できるのは、やはり耐圧650Vなのでしょうか。
Witham氏 そう考えている。耐圧1200VではSiC、650VはGaNというすみ分けは変わらないだろう。耐圧900Vがグレーゾーンになるかと思うが、少なくともトラクションインバーターの回路においては、われわれは、900VのGaNを開発するよりも、もっと有効な方法を見つけた。耐圧1200VのIGBTと耐圧650VのGaNを組み合わせる方法だ。われわれは、これを「Tタイプ」と呼んでいる。Tタイプの構成では、800Vのバッテリー向けのトラクションインバーター回路でテストしてみたところ、電力損失をSiCを使用した時と同等レベルにまで抑えることができた。しかも、IGBTとGaNを組み合わせるのだから、コストは相当低くなる。
EETJ GaN Systemsは、耐圧900Vやそれ以上のGaNパワートランジスタを開発する計画はありますか。
Witham氏 もちろん、研究開発は継続して行っているが、現時点で発表できることは特にない。
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