産総研、ダイヤモンド基板とSi基板を直接接合:薬品処理と低温加熱だけで実現
産業技術総合研究所(産総研)は、化学薬品による処理と低温加熱だけでダイヤモンド基板とシリコン(Si)基板を直接接合できる技術を開発した。
ダイヤモンドを用いたパワー半導体の量産を後押し
産業技術総合研究所(産総研)は2019年5月、化学薬品による処理と低温加熱だけでダイヤモンド基板とシリコン(Si)基板を直接接合できる技術を開発したと発表した。ダイヤモンドを用いたパワー半導体の量産を後押しする。
今回の研究成果は、産総研集積マイクロシステム研究センターMEMS集積化プロセス研究チームの松前貴司研究員と倉島優一主任研究員、同研究センターの高木秀樹副研究センター長、先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンド材料チームの梅沢仁主任研究員らによるものである。
ダイヤモンドはSiに比べて、熱伝導率が15倍、絶縁破壊電界が60倍という優れた特性を持つ材料である。このため、パワー半導体では「究極の材料」といわれている。ただ、単体基板で用いるとコスト高となるため、商用化の大きな課題となっていた。そこで、ダイヤモンド基板とSi基板を直接接合して材料コストを抑える研究が進んでいる。ただ、現状だと直接接合を実現するには、1000℃以上での高温処理や、超高真空の雰囲気中で表面層を除去するなど、特殊な処理が必要となっていた。
研究チームは今回、半導体基板の洗浄で一般的に用いられる硫酸/過酸化水素(H2SO4/H2O2)混合液を用いて、ダイヤモンド表面を洗浄しながら水酸基修飾する技術を開発した。開発した技術は、処理条件を制御することにより、ダイヤモンド結晶の特定面[(111)面]について、接合に適した平滑な表面を保ちつつ、水酸基修飾を行うことが可能となった。同じく水酸基修飾を行ったSi基板と接触させ、その後に200℃で加熱した。
こうした処理を行うことによって、[Si−OH+C−OH⇒Si−O−C+H2O]という化学式の脱水反応が起こり、直接接合が可能となった。この反応は大気雰囲気中でも起こるため、真空装置などを用意する必要はないという。
研究チームは、透過型電子顕微鏡を用いて接合界面のナノ構造を観察した。これにより、シリコン表面の酸化膜(SiO2)とダイヤモンドが、欠陥なく原子レベルで密着していることを確認した。酸化膜の厚みは約3nmで、伝熱性も問題ないとみている。SiO2膜は一般的に結晶とならず格子構造は観察できなかった。一方、ダイヤモンド側はアモルファス化がほとんど見られず、接合界面まで格子構造を観察することができたという。
研究チームは開発した技術について、合成や研磨が容易な[(100)面]など他の結晶面への適用を進めていく。また、放熱基板や絶縁基板としての応用を検討するため、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)、Ga2O3(酸化ガリウム)といった材料との接合、多結晶ダイヤモンドの接合、接合界面におけるSiO2層の膜厚低減などに取り組む方針である。
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