半導体業界のトレンドは「3次元化」が明確に VLSI 2019:過去最高の出席者数で大盛況(4/4 ページ)
2019年のVLSIシンポジウム(以下、VLSI)が6月9〜14日に、京都のリーガロイヤルホテルで開催された。今後の半導体業界の進む方向性を伺える内容が多かったのでレポートする。
Technology Evening Panel Discussion
現在の半導体業界(特にデバイス・プロセス関係者)の集合意識が、6月11日(火)の夜に行われたTechnology Evening Panel Discussionで垣間見えた気がする。
テーマは“What Will the Foundries of the Future Do?(将来のファウンドリーは何をするのか)”で、東京エレクトロン(TEL)のAnton DeVilliers氏がモデレーターを務め、以下の6人がパネラーとして参加した。
- Kaizad Mistry氏:Intel VP of technology & manufacturing
- Anthony Yu氏:GLOBALFOUNDRIES VP of Si foundry
- Chidi Chidambaram氏:Qualcomm VP of Si tech/foundry
- Paul Jung氏:Samsung Electronics VP
- 大場隆之氏:東京工業大学 特任教授
- Kevin Zhang氏:TSMC VP of business development
このPanel Discussionでは、各パネラーが5〜10分程度のシュートプレゼンテーションを行った後、質問を提示し、会場の出席者がスマートフォンで回答を投票するというスタイルが取られた。
会場をざっと見たところ、150人程度の出席者がいた。その所属は、半導体メーカー、装置メーカー、材料メーカーと多様であるが、半導体業界の一つの“空気”が読み取れたように思う。以下に各質問と回答結果を示す。
Q1 Do you believe that gate length of a transistor can be scaled down to 10nm or below? (Test question)(トランジスタのゲート長は、10nm以下まで微細化できると思いますか?【※テストのために設けられた質問】)
73人が“Yes”と回答し、27人が”No“と回答した。つまり、半導体業界人の多くが、ゲート長は10nm以降も微細化されると思っている訳だ。ちなみに筆者も、”Yes”に投票した。
Q2 What kind of integration would you most likely to leverage 3D/advanced packaging technologies? (Kaizad Mistry, Intel)(どのようなチップの統合において、3D/最先端パッケージが活用されると思いますか?【IntelのKaizad Mistry氏による質問】)
筆者が今後の半導体技術のトレンドと捉えた3次元化について、半導体業界人の43人がロジックとメモリが積層されると回答し、何と54人が“All Above”と回答した。3次元化のトレンドは、どうやら本物であると考えられる。
Q3 How long do you think Moore’s Law will last?(Kaizad Mistry, Intel)(ムーアの法則は、あとどのくらい続くと思いますか?【同上】)?
この回答は3つに分かれた。ムーアの法則が5年以内に終わると回答した人が40人、5〜10年以内が42人、10年以上続くと回答した人が31人だった。ちなみに筆者は、10年以上に投票した。
Q4 In case of 3D, which process do you want use either chip-scale or wafer platform?(Takayuki Ohba, Tokyo Tech. Univ.)(3Dにおいて、チップスケールあるいはウエハープラットフォームの、どちらのプロセスを使いたいですか?【東京工業大学 特任教授 大場隆之氏による質問】)
この質問への回答で最も多かったのが“Chip on Wafer”の48人だった。筆者は、29人が支持した”Wafer on Wafer”に一票を投じた。
Q5 What device architecture will be viable beyond 3nm?(Paul Jung, Samsung)(3nm以降では、どのようなデバイスアーキテクチャが用いられると思いますか?【Samsung Electronics Paul Jung氏による質問】)
最も多かった回答は、Nanowire/Nanosheetの50人だった。ちなみに筆者は、17人が投票したComplementary FET(CFET)/scaling boosterに一票を入れた。
Q6 Among the up and coming techs, which one will drive the highest wafer volume in 5 years?(Chidi Chidambaram, Qualcomm Technologies, Inc)(新しい技術のうち、今後5年間で最もウエハー出荷量が多くなるものは何だと思いますか?【Qualcomm Technologies Chidi Chidambaram氏による質問】)
5G(第5世代移動通信)が38人、AIが24人、IoTが15人だった。“in 5 years”という制限つきだったため、このような回答になったと思われる。“in 10 years”だったら、例えばAIなど、違った結果が最多になったのではないか。
Q7 Beyond vertical integration (3D), which more-than-Moore technologies will have the largest impact to improve computing systems?(Anthony Yu, GLOBALFOUNDRIES Inc.)(3次元化以降について、どの“more than Moore”のテクノロジーが、コンピュータシステムの性能向上に最も大きな影響を与えると思いますか?【GLOBALFOUNDRIES Anthony Yu氏による質問】)
embedded NVM (Non Volatile Memory)が43人と最多で、次いでOptical interconnect/photonicsが17票を集めた。ちなみに筆者は、embedded NVMに投票した。
以上がTechnology Evening Panel Discussionでの質問と回答である。何となく、半導体業界が進むであろう方向性が見えた気がした。モデレーターやパネリストだけでなく、出席者全員にとって、非常に良いマーケテイングになったのではないだろうか。読者諸賢の回答は、いかがであろうか?
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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