3D NANDフラッシュ製造のカギとなるプロセス技術:福田昭のストレージ通信(118) 3D NANDのスケーリング(6)
今回は、3D NANDフラッシュメモリの製造プロセスにおける重要な技術(キープロセス)について解説する。
高難度の技術を駆使して3D NANDの複雑な立体構造を実現
半導体メモリ技術に関する国際会議「IMW(International Memory Workshop)」では、カンファレンスの前日に「ショートコース(Short Course)」と呼ぶ1日間のセミナーを開催している。今年(2018年)5月に開催されたIMWのショートコースでは、9件の技術講座(チュートリアル)が午前から午後にかけて実施された。その中から、3D NANDフラッシュメモリ技術に関する講座「Materials, Processes, Equipment Perspectives of 3D NAND Technology and Its Scaling(3D NAND技術とそのスケーリングに関する材料とプロセス、製造装置の展望)」がとても参考になったので、その概要をシリーズでお届けしている。講演者は半導体製造装置の大手ベンダーApplied MaterialsのSean Kang氏である。
なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前回は、2D NANDフラッシュ(プレーナーNANDフラッシュ)と3D NANDフラッシュのスケーリング(高密度化)手法の違いを説明した。今回は、3D NANDフラッシュメモリの製造プロセスにおける重要な技術(キープロセス)を概観する。
「キープロセス」には、「多ペア薄膜(Multi-pair)の成膜(Deposition)」「ハードマスク(Hardmask)の成膜とエッチング」「高アスペクト比(HAR:High Aspect Ratio)のエッチング」「メモリセルの形成(Formation)」「ステアケース(Staircase)のパターン形成」「絶縁膜の埋め込み(Isolation Fill)」「平坦化(Planarization)」などがある。これらの中で特に注目すべきプロセスを、ごく簡単に説明していこう。
ペア薄膜とは、絶縁層と制御ゲート層(ワード線層)の薄膜のことで、3D NANDフラッシュの製造では、このペア薄膜を数多く積み上げることで、セルストリングを垂直方向に形成する。数多くのペア薄膜を均一な品質と膜厚で堆積することが欠かせない。
エッチングのマスクパターンは通常、リソグラフィ(レジストを露光・現像すること)によって形成する。これに対して薄膜を堆積してエッチングによってパターンを作り、このパターンをさらに下層のエッチング用マスクとする手法がある。これが「ハードマスク」である。
3D NANDフラッシュのセルストリング形成プロセスでは、非常に深くて細い孔をエッチングによって開けるため、頑丈なハードマスクを使う。ここで孔の深さ(高さ)と直径の比率が「アスペクト比(AR)」である。セルストリング用の孔は例えば32ペア層といった極めて多くの層を貫通するので、エッチングは当然ながら、超HARとなる。
メモリセルの形成で重要なのは、細長い孔の形成だけでなく、孔を形成した後に窒化膜や酸化膜などを孔の側壁に均一に成膜することである。これは容易ではなく、原子層単位の膜厚制御が求められる。
ステアケース(階段状の構造)のパターン形成も、3D NANDフラッシュに特有の製造工程である。例えば32ペアのメモリセルを積み上げる構造では、32段の階段構造を作り、さらには最上層の金属配線層とステアケース各段のワード線層を細長い柱状の導体で接続しなければならない。
忘れてはならないのが、絶縁膜の埋め込み工程である。複雑で入り組んだ形状の構造に、絶縁膜をすき間なく充填する必要がある。そしてリソグラフィによってパターンを形成する前には、表面をあらかじめ平坦化しておかければならない。前回でも説明したように、形状が複雑な3D NANDフラッシュの製造では、平坦化プロセス(CMPプロセス)の回数が著しく増加する。
(次回へ続く)
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