imec、エネルギー密度2倍の全固体電池を開発:EVの長距離走行実現に向けて
ベルギーの研究開発機関imecは、ドイツ ベルリンで2019年6月17〜19日に開催された「European Electric Vehicle Batteries Summit 2019」において、全固体リチウム金属電池のエネルギー密度を、従来の2倍に高めることに成功したと発表した。現在、電池の試作用製造ラインを拡張しているという。これにより、電気自動車(EV)の長距離走行実現への道が開かれる。
充電速度0.5C(2時間)で、エネルギー密度400Wh/Lを実現
ベルギーの研究開発機関imecは、ドイツ ベルリンで2019年6月17〜19日に開催された「European Electric Vehicle Batteries Summit 2019」において、全固体リチウム金属電池セルのエネルギー密度を、従来の2倍に高めることに成功したと発表した。現在、電池セルの試作用製造ラインを拡張しているという。これにより、電気自動車(EV)の長距離走行実現への道が開かれる。
imecは、「われわれが今回開発した電池セルは、充電速度0.5C(2時間)で、エネルギー密度400Wh/Lを実現する。固体電池のエンジニアリングロードマップとしては、2024年までに、液体電解質を用いるリチウムイオン電池の性能を上回り、2〜3C(20〜30分)で1000Wh/Lを実現できる見込みだ」と述べる。
既存の再充電可能なリチウムイオン電池技術は、まだ改善の余地があるものの、EVの走行距離や自律性を大幅に向上させるには不十分だ。このためimecの研究グループは、液体電解質ベースのセルを超えたエネルギー密度を実現するプラットフォーム提供のため、液体電解質を固体材料に置き換える研究に取り組んでいるという。
「液体で導入後に固体化」高伝導率の材料を開発
研究開発センターが開発した材料「固体ナノコンポジット電解質」は、伝導率が最大10mS/cmと極めて高く、今後もさらなる向上が期待できるという。大きな特長は、ウェットコーティングを用いることで、まずは液体として導入した後、電極内に入った段階で固体化するという点だ。この方法は、液体電解質と全く同じように、密度の高い粉体電極に注入することで、全ての空洞を埋めて接触を最大化するのに最も適している。
imecは、固体ナノコンポジット電解質を、一般的なリン酸鉄リチウム(LFP)カソードとリチウム金属アノードとを組み合わせて使用することで、過去最高レベルのエネルギー密度と充電速度を備えた固体電池を実現したという。
さらにimecは、新しい固体電池技術のための最先端の研究室で、この電池の性能向上に取り掛かっている。この研究所では、300m2の電池試作ラインに、100m2の乾燥室が備えられているという。既存のロール・ツー・ロールのウェットコーティングをベースとした製造ラインは、imecの固体電解質を処理するのに適している。
この新しい電池セルの組み立ては、リチウムイオン電池用の既存の製造ラインを一部変更すれば対応可能となる。つまり、液体電解質を用いる電池から固体電池への切り替えに、新たに高額な設備投資をする必要がないということだ。新しい試作ラインは、imecのパートナーであるベルギー ヘンク(Genk)のEnergyVilleキャンパスと、ベルギーのハッセルト大学(Hasselt University)にそれぞれ設置されている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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