産総研、亜鉛空気二次電池用の電解質を開発:高容量で長寿命化を実現
産業技術総合研究所(産総研)は、京都大学の協力を得て、充放電による劣化を抑え、亜鉛空気二次電池の寿命を延ばすことができる電解質を開発した。
高濃度の塩化亜鉛水溶液を採用
産業技術総合研究所(産総研)エネルギー化学材料オープンイノベーションラボラトリ(ChEMーOIL)の陳致堯研究員と窪田啓吾主任研究員らは2019年7月、充放電による劣化を抑え、亜鉛空気二次電池の寿命を延ばすことができる電解質を、京都大学エネルギー化学研究科の松本一彦准教授らと開発したことを発表した。
亜鉛空気電池は、軽量で容量が大きいため次世代蓄電池として注目されている。半面、課題もあった。「電解質が水溶液のため、水が揮発して電解液が劣化する」「電解質がアルカリ性のため、空気中の二酸化炭素と反応して酸化亜鉛が発生し、電極性能が低下する」「負極にデンドライトが発生する」などである。
産総研は京都大学の協力を得て、亜鉛空気電池を二次電池化するための材料開発に取り組んだ。今回用いた電解質は、高濃度の塩化亜鉛水溶液である塩化亜鉛水和物溶融塩。この電解質は酸性のため二酸化炭素とは反応しない。また、塩化亜鉛の濃度を限界まで高めることで揮発性を抑え、同時にデンドライト形成も抑制することができたという。
電解質としてアルカリ水溶液を用いた従来の亜鉛空気二次電池と、塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた亜鉛空気二次電池の充放電効率を調べた。この結果、アルカリ水溶液を用いた亜鉛空気二次電池は、充放電を数回繰り返すと効率は急激に低下した。5回目の充放電効率は初回に比べて20%以下となった。
これに対し、塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた亜鉛空気二次電池は、充放電を10回繰り返しても効率は初回と変わらず、電圧も低下しないことが分かった。アルカリ水溶液を電解質として用いた場合の課題を解決できたことが、電池の長寿命化につながったとみている。
産総研は、新たな空気極触媒の開発に取り組み、エネルギー密度の向上やさらなる長寿命化を目指す方針だ。
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