東工大、低電圧高輝度のペロブスカイトLED開発:緑色発光、5Vで50万cd/m2
東京工業大学は、ペロブスカイト型ハロゲン化物を用い、低電圧駆動で極めて輝度の高いペロブスカイトLED(PeLED)を開発した。
a-ZSOがペロブスカイト層内に励起子を閉じ込め
東京工業大学元素戦略研究センターの沈基亨大学院生と金正煥助教、細野秀雄栄誉教授らは2019年7月、ペロブスカイト型ハロゲン化物を用い、低電圧駆動で極めて輝度の高いペロブスカイトLED(PeLED)を開発したと発表した。
ペロブスカイト型ハロゲン化物(CsPbX3、ここではX=Cl、Br、I)は、色純度の高さや、溶液プロセスで製造できるなどの特長があり、新たなEL用発光材料として注目されている。ただ、これまでは高い効率で発光させることが難しかったという。
そこで研究グループは、CsPbX3を発光層とし、これに適した電子輸送層(ETL)を用いることで、励起子の生成濃度を増大し、閉じ込め効果による特性の向上に取り組んだ。実験ではまず、電子親和力が異なる透明酸化物半導体の「アモルファスZn-Si-O(a-ZSO)」をガラス基板上に成膜。その上に設けたCsPbX3薄膜の発光特性を調べた。a-ZSOはZnとSiの割合によって電子親和力を連続的に変化させることができるという。
実験結果から、隣接した層とペロブスカイト層とのエネルギーの違いにより、消光現象や励起子の閉じ込め効果を得られることが分かった。特に、a-ZSOはZnの比率が80%あるいはそれ以下になるとペロブスカイト層の励起子閉じ込め効果が明確になることも分かった。そこで、80ZSOをETLに用いたPeLEDを作製した。発光層にはCsPbBr3(緑色発光)膜を形成している。
試作した緑色PeLEDは、電圧2.9V、輝度1万cd/m2で、電力効率は33lm/Wである。電圧5Vでは50万cd/m2と極めて高い輝度を確認した。赤色発光素子では2万cd/m2となった。a-ZSOの成膜条件や組成を変えると導電性を調整できる。これにより、電力効率は7.5lm/Wから22lm/Wまで大きく上昇することを確認した。
(a)PLとELのスペクトル比較、(b)80ZSO ETLを用いたPeLED素子の電圧‐ELと電圧‐電流特性を示すグラフ、(c)電流効率と電力効率を示すグラフ、(d)ZSO ETLの電導性によるPeLEDのEL特性比較、(e)ZSO ETL上に「Tokyo Tech」模様のZnO膜を部分的に形成したPeLEDの素子構造、(f)その発光写真 (クリックで拡大) 出典:東京工業大学
ZSO ETL上にZnO(酸化亜鉛)膜を部分的に形成した電子注入層を使ったPeLEDも試作した。これを評価したところ、ZSOと隣接した面のみが発光し、エネルギーアライメントが極めて重要であることを実証した。赤色や青色のPeLEDも試作し、これらのEL特性を確認した。これらの結果から試作したPeLEDは、sRGBよりも極めて広い領域の色再現性を実現できることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東工大、高効率で高輝度の緑色LED用材料を開発
東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の平松秀典准教授らによる研究グループは、室温で緑色発光するペロブスカイト硫化物の新半導体「SrHfS▽▽3▽▽」を開発した。 - 東工大ら、室温で電場による磁化反転を実証
東京工業大学らの研究グループは、強磁性と強誘電性が共存するセラミック結晶について、室温で電場による磁石の極性を反転(磁化反転)させることに成功した。次世代磁気メモリの実現に弾みをつける。 - 東工大、振動発電素子のエレクトレットを外付け
東京工業大学(東工大)は、新原理の振動発電素子を東京大学と共同で開発し、発電することを確認した。開発した素子は、MEMS可変容量素子とエレクトレット層を個別に作製し、電気配線で接続する構造である。 - 東工大、極低消費電力のデジタルPLLを開発
東京工業大学は、消費電力が極めて小さい分数分周タイプのデジタル位相同期回路(PLL)を開発した。従来の開発品に比べて消費電力を60%削減できるという。 - 上空のドローンから4K非接触映像を実時間伝送
セコムと東京工業大学は、ミリ波無線通信装置を共同で開発し、100m上空を飛行するドローンから撮影した4Kの非圧縮映像を、地上のアクセスポイントにリアルタイムで伝送する実験に成功した。 - 5G向けミリ波帯フェーズドアレイ無線機を開発
東京工業大学の岡田健一教授とNECは、5G(第5世代移動通信)システムに向けたミリ波帯フェーズドアレイ無線機を共同で開発した。