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日韓経済戦争の泥沼化、短期間でフッ化水素は代替できない湯之上隆のナノフォーカス(16)(4/4 ページ)

日本政府による対韓輸出管理見直しの対象となっている3つの半導体材料。このうち、最も影響が大きいと思われるフッ化水素は、短期間では他国製に切り替えることが難しい。ただし、いったん切り替えに成功すれば、二度と日本製に戻ることはないだろう。

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フッ化水素の輸送にはノウハウも必要

 韓国では2012年9月に、フッ化水素の漏洩(ろうえい)事故が発生したことがある。この事故で、慶尚北道亀尾という村は、「事故対策本部によると、この日まで確認されたフッ酸吸入患者は前日の893人より701人増えた1594人。農作物被害は当初の91.2ヘクタールから135ヘクタール、家畜は1313頭から2738頭に増えた。腐食車両も25台から516台に増えた。付近の企業40社が53億ウォン(約3億5000万円)の被害を申告した」とある(中央日報2012年10月6日)。要するに、村全体が壊滅的被害を受けたわけだ。

 その原因について10月9日の中央日報は次のように報じている。「この事故を捜査中の亀尾警察署は、事故当日の先月9月27日、同社作業班のC班長(30、死亡)ら職員3人が20トンのタンクローリーに入ったフッ酸を会社の貯蔵タンクに移す作業をする際、ホースをつないでいない状態でバルブを開いたことを確認した。当時、C班長が同僚職員(41、死亡)に会うためタンクローリーから降りてから約5分後、連結部品から突然フッ酸ガスが噴出したということだ」

 フッ化水素は非常に危険な薬液である。その取扱いを一つ間違えると、村が一つ消滅するほどの破壊力がある。従って、日本製を他国が代替する場合、その運送や移し替えには、よく訓練された従事者が必要になる。単に、ドラム缶、トラック、タンクローリー、そのドライバーの頭数を用意すれば済むという問題ではない。

代替されたら二度と日本製は使用されない

 韓国産業通商資源省は8月5日、「素材・部品・装備競争力強化対策」を発表し、半導体、ディスプレイ、自動車、電機・電子、機械・金属、基礎化学の6大分野から100品目を戦略品目に指定した。フッ化水素やレジストなど20品目は1年以内、残りの80品目も5年以内には日本以外の国から安定的に供給できるようにするという(日経新聞8月6日)。

 フッ化水素を日本以外から安定供給するには年単位の時間がかかることを詳述したが、いずれは、どこかの国の企業によって代替されるに違いない。そして代替できるようになると、二度と日本製に戻ることはないだろう。やはり、日本政府は墓穴を掘ったとしか言いようがない。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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