東大、高分子半導体でイオン交換現象を発見:変換効率はほぼ100%
東京大学大学院新領域創成科学研究科の研究チームは、半導体プラスチック(高分子半導体)でもイオン交換が可能なことを発見した。
相性の良い添加イオンでドーピング量は3倍に
東京大学大学院新領域創成科学研究科の山下侑特任研究員と竹谷純一教授、渡邉峻一郎特任准教授らによる研究チームは2019年8月、半導体プラスチック(高分子半導体)でもイオン交換が可能なことを発見したと発表した。
イオン交換は、水の精製やタンパク質の分離精製、工業用廃水処理などに応用されてきた。研究チームは今回、イオン交換効率を制御することで、半導体中の電子数や流れやすさが変わることを生かし、金属的な性質を示すプラスチックを実現した。
研究チームは今回、一般的な半導体プラスチックのpoly[2,5-bis(3-tetradecylthiophen-2-yl)thieno[3,2-b]thiophene](PBTTT)を用い、イオン交換によるドーピング手法を検証した。開発したイオン交換ドーピング手法は、ドーパント陰イオン「F4TCNQ・-」を、PBTTT固体薄膜中で別の陰イオンに交換する方法である。
イオン交換後のPBTTT固体薄膜を分光計測したところ、PBTTT固体薄膜中にF4TCNQ・-ドーパントは検出されず、イオン液体中のTFSI-イオンにほぼ100%変換されていることを確認した。研究チームによれば、これほど高い効率で半導体固体中のイオン交換が行われた例は、これまでにないという。
開発したイオン交換ドーピング手法は、高い変換効率が得られる。それに加え、イオン交換を駆動力として、ドーピング量が増大することも分かった。さまざまなイオン液体や塩を用いてイオン交換効率を検証した。この結果、半導体プラスチックとドーパントの自由エネルギーが最小になるようにイオン交換ドーピングが進行することが分かった。具体的には、半導体プラスチックと相性の良い添加イオンを組み合わせると、従来の3倍を超えるドーピング量となることが明らかとなった。この数値は、半導体プラスチックにおけるドーピング量の理論限界値に迫るものだという。
さらに、高いドーピング量を示す半導体は、電子が波のように振る舞うことが分かった。この特性は一般的な金属にみられるような電子状態を示すものである。この他、化学的に安定している閉殻陰イオンに交換すると、ドーピングしたPBTTT薄膜の耐熱性を向上できることも分かった。
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