東北大、高温動作の酸化ガリウムダイオード開発:ショットキー障壁高さを1.8eVに
東北大学金属材料研究所は、酸化ガリウムと金属酸化物を原子レベルで接合することにより、350℃の高温環境でも動作可能なダイオード(整流素子)を開発した。
パラジウムとコバルトからなる層状金属酸化物に着目
東北大学金属材料研究所の原田尚之助教と伊藤俊技術職員、塚粼敦教授らの研究グループは2019年10月、酸化ガリウム(Ga2O3)と金属酸化物(PdCoO2)を原子レベルで接合することにより、350℃の高温環境でも動作可能なダイオード(整流素子)を開発したと発表した。
一般的なシリコンのバンドキャップ1.1eVに対し、Ga2O3は約5.0eVと極めて大きなバンドギャップを有している。このため、200℃以上の高温環境でも安定した動作が求められる次世代のパワーデバイス向け半導体として期待されている。既にさまざまな金属との接合によるダイオードの開発が行われているが、これまで高温環境における動作特性に課題があったという。
研究グループは今回、Ga2O3を用いた素子に適用できる金属電極として、パラジウムとコバルトからなる層状金属酸化物(PdCoO2)に着目した。このPdCoO2は、単体金属に匹敵する高い電気伝導性を示すという。また、高い熱安定性と優れた化学耐性を備えているのも特長である。
さらに、PdCoO2とβ−Ga2O3の界面を、原子レベルで制御できることを見いだし、ショットキー接合の半導体特性を評価した。この界面には、PdCoO2のPd+と[CoO2]-が交互に積層した層状構造に由来して電気双極子が形成される。電気双極子が作る電界によって1.8eVという高いショットキー障壁を実現し、350℃の高温環境で7桁以上というオンオフ比のダイオード動作を実証した。
研究グループによると、今回の研究成果は自動車や工業プラントで用いられるGa2O3パワーデバイスやセンシングデバイスに応用できるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ペロブスカイト半導体の発光量子効率を計測
東北大学は、全方位フォトルミネセンス(ODPL)法を用いて、ハライド系有機−無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体の発光量子効率(IQE)を計測することに成功した。この結果、IQEはメチルアンモニウムイオンの過不足によって大きく変動することが分かった。 - 東北大ら、新概念のスピントロニクス素子を開発
東北大学電気通信研究所は、米国パデュー大学と共同で、室温動作する新しい概念のスピントロニクス素子を開発した。この素子を疑似的な量子ビット(pビット)として用い、量子アニーリングと同じ手法で因数分解の実証に成功した。 - 東北大学、車載用途に対応可能なMTJ技術を開発
東北大学は、150℃の高温環境でも、十分なデータ保持時間(熱安定性)を確保できる磁気トンネル接合(MTJ)技術を開発した。車載システムへのSTT-MRAM応用が可能となる。 - 大口径GaNウエハーの結晶欠陥を高速に検査
東北大学は、分光技術を用いて大口径GaN(窒化ガリウム)ウエハーの結晶欠陥を高速かつ高精度に検査する技術を開発した。 - 低電流密度でも高い発光効率のGaNマイクロLED
産業技術総合研究所(産総研)と東北大学は、低電流密度でも発光効率を維持できるGaN(窒化ガリウム)マイクロLEDを開発した。 - 東北大学、FeSn薄膜で柔軟なホール素子を実現
東北大学金属材料研究所は、鉄スズ(FeSn)磁石の微結晶薄膜を室温で作製し、これがフレキシブルな磁気センサー(ホール素子)として利用できることを実証した。