東北大学、車載用途に対応可能なMTJ技術を開発:150℃でも十分な熱安定性を実現
東北大学は、150℃の高温環境でも、十分なデータ保持時間(熱安定性)を確保できる磁気トンネル接合(MTJ)技術を開発した。車載システムへのSTT-MRAM応用が可能となる。
現行の2重界面型MTJと同じ材料、プロセスで製造
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)の遠藤哲郎センター長らによる研究グループは2019年6月、150℃の高温環境でも、十分なデータ保持時間(熱安定性)を確保できる磁気トンネル接合(MTJ)技術を開発したと発表した。車載システムや社会インフラ装置などに向けた磁気ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)への応用が期待される。
スピントロニクス技術を用いたSTT-MRAMは、集積回路の消費電力を極めて小さくできる。このため、IoT(モノのインターネット)機器向けアプリケーションプロセッサなどへの応用が注目を集めている。このSTT-MRAMに広く用いられているのが、界面垂直磁気異方性(i-PAM)型のMTJ素子である。
東北大学の研究グループが2010年に発明したi-PAM型MTJ素子は、磁石層と障壁層の界面数を増やすことで、データ保持時間を延ばすことが可能となる。半面、MTJ素子への書き込み電流が増加するなどの理由から、2つの界面を持つi-PMA型MTJ素子が限界とされてきた。これだと、十分なデータ保持時間を得られる動作温度は最大85℃で、用途は一般の電子機器などに限られていた。
研究グループは今回、新たに素子技術とMTJ素子に書き込む電流を低減する技術を開発し、これらを組み合わせることで、4つの界面を持つi-PMA型MTJ素子を開発した。
開発した4重界面MTJ構造を用い、直径が50〜90nmのMTJ素子を作製、熱安定性指数と書き込み電流の評価を行った。この結果、熱安定性指数は、界面の増加分だけ2倍に増えた。この数値を現行の動作温度125℃と比べると、150℃の動作温度でデータを保持できる時間は、100万倍の長さに相当するという。書き込み電流は、界面が増えたにもかかわらず、2重界面MTJ素子と同等であることも確認した。
今回開発した4重界面型MTJは、現行の2重界面型MTJと同じ材料および、プロセスで製造することができる。このため新規の設備投資をしなくても、耐環境性に優れたSTT-MRAMやMTJ/CMOSハイブリッドのアプリケーションプロセッサなどを製造することが可能である。
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