3種類の異なる電圧状態を記憶できる
東京工業大学は2019年11月、東京大学と共同で全固体リチウム電池を応用したメモリ素子を開発したと発表した。3種類の異なる電圧状態を記憶できる多値記録型メモリとしての動作も確認した。
今回の研究成果は、東京工業大学物質理工学院応用化学系の一杉太郎教授、清水亮太助教、渡邊佑紀大学院生と、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の渡邉聡教授らによるものである。
研究グループは、消費エネルギーが小さい半導体素子の開発に取り組む中で、全固体リチウム電池の構造と動作メカニズムに注目した。一杉氏らがこれまで研究してきた全固体リチウム電池の技術をベースに、電池における「充電」と「放電」の状態を、メモリでの「1」と「0」に対応させるなどして、消費エネルギーが小さいメモリ素子を開発することにした。
全固体リチウム電池は、正極材料や固体電解質膜、リチウム(Li)薄膜を積層した構造となっている。正極材料にリチウムイオンが出入りすることで開放端電圧が変化する。電池容量は用いる正極材料によって決まり、一般的な電池用途では容量を高める材料が用いられるという。ところが、電池容量が小さいほど消費エネルギーも小さくなることが分かっており、メモリ素子の用途では、容量が小さくなる材料を選ぶ必要がある。
研究グループは今回、正極材料にニッケル(Ni)を採用した。成膜にはスパッタリング法を用い、厚み100nmのNi下部電極上に、厚み1μmの固体電解質薄膜(Li3PO4)を形成。その上部に厚み1μmのLi薄膜を積層する構造のメモリ素子を作製した。この結果、Ni下部電極とLi3PO4の間に、極めて薄い酸化ニッケル(NiO)が自発的に形成され、容量が極めて小さい全固体リチウム電池として動作することが分かった。
研究グループは、メモリ動作に必要となる消費エネルギーも算出した。スイッチングに要した消費エネルギーは8.8×10-11J/μm2で、この数値はPCに搭載されている現行のDRAM(>4×10-9J/μm2)に比べ約50分の1に相当するという。
開発したメモリ素子は、「1.1V未満の低電圧」「1.1〜1.8Vの中電圧」「1.8V以上の高電圧」と、3種類の異なる電圧状態を記録できることも分かった。その安定状態を60℃と100℃の環境で評価したところ、中電圧状態が最も安定していることを確認した。
さらに、ラマン分光測定を行ったところ、消費エネルギーの低減と多値記録の発現は、極薄のNiO膜と固体電解質内を移動するリチウムイオンの間で生じる多段階反応に起因していることが判明した。
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