東京大学、極めて小さい電力で磁化制御を可能に:電流密度は従来に比べ9桁小さく
東京大学は、磁化の向きを極めて小さい電力で回転させることができる方法を発見し、この現象を実証した。
スピンデバイスの研究開発に弾みつける
東京大学大学院工学系研究科のレデゥックアイン(Le Duc Anh)助教や田中雅明教授、大矢忍准教授のグループと関宗俊准教授、田畑仁教授のグループは2019年10月、磁化の向きを極めて小さい電力で回転させることができる方法を発見し、この現象を実証したと発表した。
電子のスピン自由度を利用して、消費電力を抑える新しいスピンデバイスの研究が進んでいる。ところが、磁化の向きを変えるには通常、107A/cm-2程度の大きな電流密度が必要であり、実用化に向けて解決すべき重要課題の1つとなっていた。
研究グループは今回、厚みが4nmと極めて薄い絶縁体SrTiO3膜を、強磁性酸化物LaSrMnO3で挟み込む構造の磁気トンネル接合素子を作製した。この接合に15〜200mVの小さい電圧を印加したところ、片方の強磁性酸化物層において磁化が90°回転することが分かった。この時の電流密度はわずか10-2A/cm-2程度で、従来方法に比べると9桁も小さい値となった。
LaSrMnO3は、SrTiO3との界面で、対称性が異なる「eg」と「t2g」という電子軌道が、互いに近いエネルギーを持つため、わずかな電圧でも伝導電子の軌道を遷移させることが可能になるという。
実験では、磁気トンネル接合素子に電圧15〜200mVを印加した。この結果、片方のLaSrMnO3層において、結晶磁気異方性が大きく変化することを確認した。この変化を利用し、LaSrMnO3の磁化を無磁場で90°回転させることに成功した。実験は3K(約−270℃)という低温環境で行ったが、原理的には室温での動作も可能とみている。
今回の研究成果について研究グループは、「強磁性材料の電子構造を適切に設計することで、磁化制御に必要な電力を極限まで低減できる可能性を示すことができた」とみている。
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