阪大ら、生体計測用の有機差動増幅回路を開発:外乱ノイズ低減で高い精度を実現
大阪大学らは、極めて薄く軽量の生体計測用信号増幅回路を開発した。外乱ノイズを低減する機能を搭載しており、歩行中でも高い精度で生体計測が可能となる。
人の肌にも違和感なく貼り付け可能
大阪大学産業科学研究所の関谷毅教授と植村隆文特任准教授らの研究グループおよび、産総研・阪大先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリ(PhotoBIO‐OIL)は2019年8月、極めて薄く軽量の生体計測用信号増幅回路を開発したと発表した。外乱ノイズを取り除く機能を搭載しており、歩行中でも高い精度で生体計測が可能となる。
開発したフレキシブル生体計測用回路は、有機トランジスタを厚みが1μmのパリレンというプラスチックフィルム上に集積した。今回は、回路内における有機トランジスタの電流ばらつきを、2%以下に抑えることができる補償技術を開発し搭載した。これによって、ノイズ除去機能を備えたフレキシブル差動増幅回路を実現した。
従来の有機増幅回路はシングルエンド型が主流で、外乱ノイズなどの影響を抑制することが難しかった。差動増幅回路にすればノイズ成分を除去できるが、有機トランジスタは製造時の特性ばらつきが比較的大きいため、これまでは開発されていなかったという。
開発したフレキシブル有機差動増幅回路を人の胸部に貼り付け、心電信号を計測した。この結果、心電信号を25倍に増幅する一方で、外部の電源ノイズや歩行による体動ノイズなどは7分の1以下に低減できることが分かった。
研究グループによれば、開発したフレキシブル有機差動増幅回路は、柔らかい肌にも違和感なく密着するという。このため、脳波や胎児心電などの微弱生体信号を計測する場合でも、正確にデータ収集を行うことが可能だという。
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