産総研、自然冷却型有機熱電モジュールを開発:低温熱源から無線通信用電源を得る
産業技術総合研究所(産総研)は、比較的低温の熱源から電力を得ることができる小型軽量の自然冷却型有機熱電モジュールを開発した。
強制冷却用の放熱フィンやヒートシンクは不要
産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門ナノ薄膜デバイスグループの向田雅一主任研究員と桐原和大主任研究員、衛慶碩主任研究員らの研究グループは2020年1月、比較的低温の熱源から電力を得ることができる「自然冷却型有機熱電モジュール」を開発したと発表した。
有機熱電材料は、比較的低温の熱源を電力に変換できることから、IoT機器の電源用途などで期待されている。ところが、モジュール化する時、高温部と低温部をつなぐ導電部材が熱伝導性に優れているため、「温度差が作りづらい」という課題があった。
研究グループは今回、有機熱電材料として厚さ50μmの「PEDOT/PSS」膜100枚、導電部材として厚さ5μmの「ニッケル(Ni)」箔(はく)99枚を、厚さ5μm(接合部分を除く)の絶縁性高分子膜(ポリイミドフィルム)で挟んだ積層型モジュールを作製した。
この時、PEDOT/PSSとNiの接触電気抵抗を増やさずに、Niの熱伝導を小さくするなど、設計を工夫した。電気抵抗と熱抵抗のシミュレーションを行ったところ、それぞれに最適値があることが分かった。
また、熱源とモジュールの接触部を工夫し、モジュールに伝わる熱効率を向上させた。この結果、熱源温度が120℃で熱電モジュールに50℃の温度差が生じ、約60μW/cm2の出力密度が得られたという。従来は温度差が得られるようモジュールに放熱フィンやヒートシンクを取り付け強制冷却していたが、開発したモジュールはその必要がなく、小型軽量化を可能とした。
研究グループは、試作した積層型モジュールで発電し、その電力を用いて無線送信機器を駆動させた。これらの実験により、現場のセンサーで収集した温度と湿度のデータをスマートフォンに送信し、モニタリングできることを確認した。開発した有機熱電モジュールの外形寸法は22×22×5mmと小さく、重さはわずか5gである。
研究グループは今後、有機熱電材料のさらなる特性向上とモジュール構造の改良を行い、100〜120℃よりさらに低温の熱源で利用可能な有機熱電モジュールの開発に取り組む計画である。
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