鉄系超伝導体で新たな量子液晶状態を実現:電子の集団がどの方向にもそろう
東京大学や産業技術総合研究所(産総研)らによる共同研究グループは、鉄系超伝導体で新たな量子液晶状態が実現できることを発見した。電子の集団応答の方向を自由に制御できることから、量子情報の伝達方向制御など、新たな量子技術の開拓につながる可能性が高い。
鉄系高温超伝導体Ba1-xRbxFe2As2を新たに合成
東京大学や産業技術総合研究所(産総研)らによる共同研究グループは2020年3月、鉄系超伝導体で新たな量子液晶状態が実現できることを発見したと発表した。電子の集団応答の方向を自由に制御できるため、量子情報の伝達方向をコントロールするなど、新たな量子技術の開拓につながる可能性が高いという。
今回の成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の石田浩祐大学院生と辻井優哉大学院生、水上雄太助教、芝内孝禎教授、産業技術総合研究所(産総研)電子光技術研究部門の石田茂之主任研究員、伊豫彰上級主任研究員、永崎洋首席研究員、ドイツカールスルーエ工科大学および、アメリカミネソタ大学の共同研究グループによるものである。
量子液晶状態とは、電子の集団が量子力学的な効果により、ある温度を境に特定の方向にそろう状態のことで、さまざまな物質で現れることが知られている。このような配向性は一般的な液晶と似ているが、電子系の量子液晶状態では結晶格子の影響を受けるため、電子のそろう方向に制限があるとみられてきた。
研究グループは今回、BaFe2As2のBaをRbに一部置換した、鉄系高温超伝導体のBa1-xRbxFe2As2を新たに合成し、その方向性を調べた。既に、BaFe2As2(x=0)は低温で量子液晶状態となることが分かっている。その向きは隣接する2つのFe原子を結ぶFe-Fe方向である。これに対し、RbFe2As2(x=1)は、Fe原子とAs原子を結ぶFe-As方向に配向をする。
これらの結果から、BaとRbの比率を最適化した試料は、電子の集団がFe-Fe方向とFe-As方向のどちらにもそろいやすくなることが分かった。
これは、有機分子など一般的な液晶に近い量子液晶状態だという。配向を自由に変化させることができれば、物質中の素励起の流れ(量子波あるいは量子流)を制御することが可能となり、量子情報の伝達方向をコントロールするなど、新たな量子技術の開拓につながるとみている。
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