産総研ら、小型原子時計の安定性を100倍向上:ライトシフトが揺らぐ仕組みを解明
産業技術総合研究所(産総研)は、安定性に優れた手のひらサイズの「小型原子時計」を、首都大学東京やリコーと共同で開発した。従来の小型原子時計に比べ、100倍の安定性を実現した。
ゼロクロス法でライトシフトの揺らぎを抑制
産業技術総合研究所(産総研)は2020年3月、安定性に優れた手のひらサイズの「小型原子時計」を、首都大学東京やリコーと共同で開発したと発表した。ライトシフトの揺らぎを抑制する「ゼロクロス法」を新たに考案。従来の小型原子時計に比べ、100倍の安定性を実現できたという。
今回の成果は、産総研物理計測標準研究部門高周波標準研究グループの柳町真也主任研究員と、首都大学東京システムデザイン学部電子情報システム工学科の五箇繁善准教授および、リコーの原坂和宏氏や鈴木暢氏、鈴木亮一郎氏らとの共同研究によるものである。
小型原子時計は、コヒーレントポピュレーショントラッピング(CPT)共鳴と呼ばれる現象を利用して、原子の固有周波数を得るのが一般的である。CPT共鳴は、面発光レーザー(VCSEL)に周波数変調を加え、出力される2周波数のレーザー光とセシウム(Cs)原子の相互作用で生成される。
その過程でライトシフトも同時に発生する。ライトシフトとは、原子のエネルギー準位が変化し、それによってCs原子の固有周波数も変化する現象。ライトシフトが揺らぐことによってCs原子固有周波数が変動する。これが小型電子時計の安定性を低下させる要因となっていた。
そこで研究グループは、VCSEL発振波長の経年変化が、ライトシフトの揺らぎに関与していることを定量的に解明した。その上で、消費電力を増やさずに、ライトシフトの揺らぎを抑制する方法を考案した。それが「ゼロクロス法」である。
研究グループは、150日以上かけてゼロクロス法による効果を評価した。ゼロクロス法を適用した結果、Cs原子固有周波数の変動を抑制できることが分かった。平均時間を約50日間(4.3×106秒)とした場合に、従来の小型原子時計と比べ、100倍の安定性を実現したという。
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