超広帯域発光素子で高い発光強度と長寿命を実現:小型ハロゲンランプを代替
産業技術総合研究所(産総研)は、発光強度を高め長寿命を実現した紫外LED励起型超広帯域発光素子を開発した。発光波長域は近紫外(350nm)から近赤外(1200nm)と広い。
バインダーの材料や構造を見直す
産業技術総合研究所(産総研)センシングシステム研究センターバイオ物質センシング研究チームの藤巻真研究チーム長と福田隆史主任研究員は2020年1月、発光強度を高め長寿命を実現した「紫外LED励起型超広帯域発光素子」を開発したと発表した。発光波長域は近紫外(350nm)から近赤外(1200nm)と広い。
開発した超広帯域発光素子は、紫外LEDと複数の蛍光体を組み合わせたもので、紫外LEDの光で蛍光体が励起され、さまざまな波長の光を発する。特に今回は、ハロゲンランプの代替光源となるよう、発光強度(明るさ)の向上と長寿命化に取り組んだ。
素子全体の発光強度を高めるには、蛍光体を励起する紫外LEDの発光強度を高めることが最も簡単な方法である。ところが、紫外LEDの発光強度を高めていくと、バインダー材料(一般的に白色LEDで用いられるのはシリコーン樹脂かエポキシ樹脂)や蛍光体が、熱反応や光反応により劣化するという。このため、これまでは長期間の安定性を確保するのが難しかった。
そこで産総研は、バインダーの材料や構造を見直した。例えば、「空気中の水分や酸素の侵入を防止する」(ガスバリアー性)、「強い紫外線照射よるバインダー自身の熱・光変性を小さくする」(熱/紫外線耐性)、そして「強い紫外線で励起された蛍光体が発生する熱を効果的に放散する」(熱伝導性)といった点である。
これらの改良によって、極めて強い紫外線照射によって生じる、バインダーと蛍光体の化学的・物理的変化を抑制することができた。この結果、開発した発光素子は200mW以上の明るさと、1000時間以上の寿命を両立させることに成功した。
上図は開発した超広帯域発光素子の主要部分を模式した図と劣化したバインダー・蛍光体の例、下図は開発した超広帯域発光素子の発光強度と、規格化発光強度(初期強度を100%とした相対値)の経時変化を示した図 出典:産総研
産総研によれば、開発した超広帯域発光素子はハロゲンランプと比べ、「省電力」「熱線(中/遠赤外線)が発生しない」「小型」「耐衝撃性に優れる」「パルス点灯が可能」といった特長があるという。このため、小型光センサーや可搬型分析機器などの用途で、メンテナンスフリー光源として活用できるとみている。
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