コロナ感染者をスマホで追跡、悩む欧米:プライバシー問題との狭間で(2/2 ページ)
英国の政府が、通信事業者との間で、契約者の位置データにアクセスできるようにすることを検討し始めているという。狙いは、ソーシャルディスタンシング(社会的距離)戦略に関するガイドラインを確実に実施し、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大を阻止することだ。
GoogleやFacebookの取り組み
これまでのところ、米国のトランプ政権は電話追跡技術の展開を支持してはいない。先日、ホワイトハウスで開かれた技術企業との会議では、この話題は議題に上らなかったようだ。
「新型コロナウイルスは人と人の距離が約30cm以内の場合に広がっているとみられるが、携帯電話のGPSの位置情報で検知できるのは通常7〜10mの範囲(携帯電話のBluetoothが有効な場合は若干精度が上がる)であるため、精度が十分ではないと考えられる」という提言にとどまったと思われる。
その一方、「少なくとも試してみる価値がある。これを実現できるのは技術企業だけだ」と提案している企業もある。
ホワイトハウスの会議は、「CoEpi(Community Epidemiology In Action:地域疫学活動)」プロジェクトのように、米国企業数社が追跡アプリ(オープンソースソフトウェアを使うアプリも含む)の開発を開始したことに言及している。
Googleは、豊富な位置情報データを利用して特定のアプリを開発するプロジェクトに取り組んでいる。「匿名化した位置情報を集約して、ウイルスとの戦いに役立てる方法を模索している」という。その一例として、Googleマップで人気のあるレストランの混雑する時間や客の来店状況を表示するのと同じ様に、保健当局がソーシャルディスタンシングの影響を判断する支援を行うアプリがある。
ただしGoogleは、「このようなパートナーシップは、個人の位置情報や移動情報、交流関係に関するデータの共有を伴わない」と強調している。
また、Facebookは数カ国の保健研究者や組織と協力して、「Disease ― Prevention Maps(病気予防マップ)」と呼ばれるプロジェクトを通じて、Facebookユーザーの活動状況を匿名化して集計した統計を提供している。
英国では、オックスフォード大学の医学研究者と生命倫理の専門家が、欧州の政府や企業と協力し、新型コロナウイルスの感染者と接触した人を即座に追跡するためのアプリについて研究していることを明らかにした。
オックスフォード大学のビッグデータ研究所のChristophe Fraser教授は、「われわれの数学的モデリングは、従来の公衆衛生上の接触追跡方法では、このウイルスに追い付くのが遅すぎることを示唆している」と述べている。
同研究所は、アプリによって警告を受けた人たちが自己隔離をし、その連作先の大部分を追跡できるようになれば、このアプリがパンデミックを食い止めるチャンスになるのではないかと考えている。
一方で、同アプリが機能するためには、独立したアプリ開発者ではなく、政府のプログラムとして導入される必要があると、注意を促している。もしこの技術を安全に展開できれば、ユーザー(事前に、追跡に同意した人)が増えるほど、より早く流行を抑えて、より多くの人命を救うことができるのではないだろうか。
Fraser氏は、このアプリを「非常にシンプルなものだ」としているが、同氏が正しいことを期待したい。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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