2020年大統領選を巡るハイテク業界の献金動向:自社への利益を求め
シリコンバレーの大富豪たちは、選挙献金や資金集めイベントの実施など、2020年の米国大統領選挙に向けて金銭的関心を示している。この動機は、自社や、自社が行う新興企業への投資に有益な政策を掲げる候補者を支持するためなどだ。
シリコンバレーの大富豪たちは、選挙献金や資金集めイベントの実施など、2020年の米国大統領選挙に向けて金銭的関心を示している。
動機は、自社や、自社が行う新興企業への投資に有益な政策を掲げる候補者を支持するためだ。また、長年抱き続けてきた政党への忠誠心を守りたいという考えもあるだろう。
献金を「ヘッジ」するハイテク企業たち
米国メディアは、民主党の大統領予備選挙の報道に必死だが、トランプ大統領は3年前の就任直後から、既に再選を目指した選挙運動を進めてきた。現職の大統領であるトランプ氏は、新型コロナウイルス感染拡大に対する国民の意識に影響を与えようとする一方で、会議や行事などがキャンセル/延期されるこの時期に、大勢の人々を集めた政治集会を開催し続けている。
民主党は候補者として、億万長者であるMichael Bloomberg氏とTom Steyer氏の2人を擁立した。しかし両氏とも十分な支持が得られなかったことから、選挙活動を中止してしまった。かつては混戦状態だったこの戦場は、当記事の執筆時点で、前副大統領であるJoe Biden氏と、バーモント州上院議員であるBernie Sanders氏(無所属、バーモント州)の2人だけになった。
Sanders氏は、数多くの企業(経営幹部や従業員、政治活動委員会などを含む)から献金を受けている。例えば、AlphabetやAmazon、Microsoft、Apple、AT&T、IBMなどが挙げられる。一方、Biden氏の献金源は、主に金融会社や投資家、専門家だが、同氏の政治活動における最大口献金者は、医療技術メーカーのMasimoで、その合計金額は約110万米ドルに達するという。
シリコンバレーの一部のCEOや幹部たちは、民主社会主義者であることを自認するSanders氏に対抗すべく、強力な提携関係を構築している。その一方で従業員たちは、無党派のSanders氏を強く支持している。同氏はスーパーチューズデーで、カリフォルニア州予備選挙において勝利を収めた。
データベース/ソフトウェアメーカーであるOracleの会長Larry Ellison氏は、2020年2月に、カリフォルニア州パームスプリングズにある私邸で、トランプ大統領の資金集めのためのパーティを開催した。2300人以上の同社従業員たちは、この資金集めイベント開催に反対する嘆願書に署名したという。
AppleのCEOであるTim Cook氏は、トランプ大統領との間で友好的な関係を慎重に築いてきた。トランプ大統領とその娘のイヴァンカ氏、政府関係者たちに、テキサス州オースティンの同社PC工場の視察を勧めたこともある。
対中規制の拡大続けば、米国半導体業界も苦しめる結果に
米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)やSEMIなどの組織は、もちろん候補者を推薦したり、高官候補者に献金することはないが、ワシントンD.C.で決定される政策に対しては、頻繁に声明を出している。
SEMIは最近、米商務省が提示した「米国製の半導体製造機器や関連技術(Huawei Technologiesやその関連会社が高性能マイクロチップを製造できるようになるような技術)を販売する際、連邦政府からライセンスを取得する必要がある」とする一方的な輸出規制に対し、反対を表明した。
SEMIのGlobal Public Policy & Advocacy部門担当バイスプレジデントを務めるJoe Pasetti氏は、「商務省は、米国以外で生産され、米国の機密事項ではない必要最小限コンテンツしか含まない半導体をHuaweiとその関連会社に出荷する際のライセンス要件を拡大するため、デミニミスルールを改正する提案も進めている」と説明し、「これらの規則拡大は、政府調達の禁止や米国の地方ネットワークにおけるHuawei製品の置き換え、不特定の敵対国からの技術/サービスの輸入禁止といった、政権が現在推進するさまざまなHuaweiに対する措置に含まれている」と語っている。
そのうえで、Pasetti氏は、トランプ大統領が2020年2月18日にTwitterで、「誰もが我を忘れてしまっているのではないだろうか。私の机の上には、国家安全保障とは何の関係もないものが置かれている」と述べていたことを指摘している。SEMIのプレジデント兼CEOを務めるAjit Manocha氏は、厄介な輸出規制を阻止してもらえたとして、トランプ大統領に礼状を送ったという。
Pasetti氏は、投稿したブログ記事の中で、「SEMIは、米国製の半導体デバイスや機器、材料、技術などに関する一方的な規制は、米国企業に極めて重大な損害を与え、米国における投資やイノベーションに対する阻害要因となり、米国以外の企業にも影響を及ぼす可能性があると強調している。SEMIは引き続き、政策立案者と協力し、こうした規制提案によって引き起こされる損害と広範に広がる影響について、認識を高める努力を続ける。2020年の世界半導体製造装置市場の売上高は、米国を除き(今回の提案による影響を直接受けるのは、米国以外の工場のみであるため)、約530億米ドルと予測されている」と述べている。
SIAは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に対し、輸出規制に関する同様の問題について調査書を作成するよう依頼したという。
SIAのプレジデント兼CEOであるJohn Neuffer氏は、執筆した論文の中で、「報告書によると、もし米国政府が、中国との半導体貿易に対して幅広い制限を課し続ける現在の方針を維持した場合、米国半導体メーカーは今後、競争力を失っていくことになるという。このシナリオによれば、今後3〜5年間で米国メーカーの世界市場シェアは8%縮小し、売上高は16%減少すると予測されている。もっと極端なシナリオでは、規制措置の対象が、中国向けの全ての米国製半導体へと拡大された場合、米国半導体メーカーの世界市場シェアは18%縮小し、売上高は37%も減少するという驚愕の予測結果となっている」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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