NEDOら、AI活用で効率よく透明フィルムを開発:実験回数を25分の1以下に削減
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)らと共同で、人工知能(AI)技術を活用し、優れた機能性を持つフレキシブル透明フィルムの開発を、従来の25分の1以下という少ない実験試行回数で実現することに成功した。
熟練研究者の「経験と勘」に頼らず、要求特性を満たす
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2020年4月、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)や産業技術総合研究所(産総研)、昭和電工と共同で、人工知能(AI)技術を活用し、優れた機能性を持つフレキシブル透明フィルムの開発を、従来の25分の1以下という少ない実験試行回数で実現することに成功したと発表した。
新たな有機・高分子系機能性材料の開発はこれまで、熟練研究者の「経験と勘」に基づき、仮説の検証や多くの実験を重ねる手法が一般的であった。こうした中でNEDOは、AI技術などを駆使して、新たな有機・高分子系機能性材料を効率よく開発するための研究プロジェクト「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」を2016年度に立ち上げ、研究を行ってきた。
今回は、フレキシブル透明フィルムの設計にAIを活用し、「透過率」「破断応力」「伸び」という3項目の特性がいずれも最高値となるフィルムの開発に取り組んだ。この結果、従来に比べ実験試行回数を大幅に削減することができたという。
具体的には、モバイル機器向けフレキシブル透明フィルムの設計に向けて、ガラス転移点が最も高いポリマーなど、要求特性を満たすポリマー探索にAIを活用した。実験では、27種類のフィルムを作成し、用いた原料の分子構造や配合比といった情報を、独自手法に倣って説明変数に落とし込んだ。目的変数は「換算透過率」と「破断応力」「伸び」の3項目を選び、その実測データをAIに学習させた
その後、多数の説明変数(分子構造)データを用意し、偏差値概念を導入したAIにこれら3項目が等しい割合で最大となるよう、フィルムの配合を予測させた。この予測に基づいてフィルムを作製した。同様に熟練研究員は、自身の知見に基づきフィルムを作製し、それぞれの物性値を比較した。
これらの実験結果から、AIが予測した配合で作製したフィルムの物性値は、初期データである27種類のフィルムを超え、熟練研究員が作成した25種類のフィルムよりも優れていることが分かった。
NEDOらの研究グループは、AI技術をさらに高度化することで要求特性を満たしつつ、より優れた物性値となる分子構造や配合比を予測できるよう、開発を継続していく予定である。
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