東京大、最適なナノ構造設計で熱伝導率を最小化:MI法を用いて熱機能材料を開発
東京大学の塩見淳一郎教授らは、半導体材料の熱伝導率を最小化できるナノ構造を、計算科学に基づくMI手法で設計し、作製したナノ構造の有効性を実験によって実証した。
熱電変換技術などへの応用に期待
東京大学の塩見淳一郎教授らは2020年6月、半導体材料の熱伝導率を最小化できるナノ構造について、計算科学に基づくMI(マテリアルズ・インフォマティクス)手法を用いて設計し、作製したナノ構造の有効性を実験によって実証したと発表した。
塩見氏らの研究グループは、MI手法を活用して、熱伝導率を最小/最大にする最適構造の設計手法を2017年に開発した。ところが、設計したナノ構造を実際に作製し、実験によって評価することはこれまで行っていなかったという。
研究グループは今回、熱伝導率の制御に関するMI手法の有効性を実証することや、フォノン(格子振動)の波動性を最大限に生かしたナノ構造の同定とメカニズムの解明に取り組んだ。材料系はGaAs(ガリウムヒ素)とAlAs(アルミニウムヒ素)の組み合わせを採用した。
実験ではまず、原子グリーン関数法によるフォノンの波動的輸送計算と、ベイズ最適化手法による機械学習を交互に組み合わせ、熱伝導を最小化するよう非周期的超格子を設計した。続いて、設計した構造を分子線エピタキシー法で作製した。そして時間領域サーモリフレクタンス法により、熱伝導率の温度依存性を計測した。
この実験で得られた結果は、設計した通りの熱伝導率と温度依存性だったという。これは、MI手法による非周期超格子構造および、熱伝導物性の有効性が実証されたことだという。また、最適な非周期的超格子の熱伝導率は、従来の周期的超格子よりも極めて小さくなった。このメカニズムを解明したら、非周期的超格子の各部位が、特定の周波数のフォノンを干渉させ、伝搬を遮断していることが分かった。
今回の研究成果は、熱電変換デバイスなど、電気伝導率や機械的特性を維持しながら熱伝導率を低減する、熱機能材料の開発などに活用できるとみている。
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