東京大学、加圧電解プレドープ技術を開発:二次電池の高容量化を可能に
東京大学大学院理学系研究科の西原寛教授らは、二次電池の高容量化を可能にする加圧電解プレドープ技術を開発した。二次電池の容量が20%も増加し、繰り返し行う充放電に伴う容量低下も抑えられる。
充放電サイクルの寿命も長くなる
東京大学大学院理学系研究科の西原寛教授らは2020年2月、二次電池の高容量化を可能にする加圧電解プレドープ技術を開発したと発表した。開発した技術を用いることで、二次電池の容量が20%も増加したという。繰り返し行う充放電に伴う容量低下も抑えられることを確認した。
これまでの二次電池は、初回の充放電で電解液や添加材が関連する副反応が生じる。これが不可逆容量となって、電池の容量が計算値より小さくなるという課題があった。これを解決する方法として、二次電池を組み立てる前に、負極とリチウムを反応させる電気化学的プレドープが検討されてきた。しかし、電解反応に数時間を要することもあり、これまで実用的に利用されることはなかったという。
西原研究室は今回、負極の電気化学的プレドープを加圧環境で行うことにより、大電流で高濃度までリチウムをあらかじめ添加しておくことができることを実証した。実験では、電気化学的にプレドープをしたシリコン負極と、正極材(LiNMC)からなる二次電池を用いて、充放電時における容量と電圧を測定し、プレドープをしていないシリコン負極を用いた二次電池と比較した。
この結果、プレドープをしたシリコン負極を用いた二次電池の容量は150Ah/kgで、活物質の設計値に近い値を示した。一方、プレドープをしていないシリコン負極を用いた二次電池は125Ah/kgとなり、容量が約20%も低下した。また、充放電を繰り返し行ったところ、容量は5サイクル目までに15Ah/kg下がった。これらのことから、加圧電解プレドープによって、二次電池の高容量化と長寿命化を達成できることが分かった。
今回開発した技術を用いると、電気化学的プレドープをしたことによってシリコン粒子の表面に固体電解質界面(SEI)層が形成される。特に、加圧環境でプレドープをしたシリコン負極は、電解液や添加材が反応し、島状のLi2CO3を含むSEIが形成されている。これに対し非加圧環境でプレドープをしたシリコン負極には、主にLi2Oが含まれていた。
さらに、超高速MAS固体核磁気共鳴測定および、X線回折測定を行ったところ、加圧電解プレドープをした電極には安定したLi15Si4が生成されていることを確認した。このことから、充放電を繰り返し行っても劣化しにくい電極となることが分かった。
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