TSMCも? 米中貿易摩擦で業界は過剰在庫に直面か:鍵を握るHuaweiとApple(2/2 ページ)
TSMCと、同社を担当するアナリストたちは、エレクトロニクス業界のサプライチェーンで過剰在庫が生じているとの認識で一致している。しかし、両者の見解はここから分かれるようだ。
TSMCは“板挟み”の状態
Liu氏は、「TSMCは、米中間の貿易戦争で板挟み状態になっている。しかし、こうした中での制限事項は、TSMCだけでなく、Samsung Electronicsや中国SMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)などの競合企業にも同様に適用される。貿易制限は、今後徐々に解消されていくだろう」と述べる。
しかしアナリストたちは、米商務省による規制緩和について、もっと悲観的な見方をしているようだ。
TSMCのナリストであるAndrew Lu氏は、「HiSiliconサプライチェーンのファウンドリーやOSAT(Outsource Assembly and Test:後工程の組み立て委託先)企業などの多くは、それぞれの売上高の10%に相当する範囲で影響が及ぶ可能性もある。2020年第3四半期中には、その影響が出始める見込みだ」と述べている。
投資銀行のCredit Suisse(クレディ・スイス)でアナリストを務めるRandy Abrams氏は、「TSMCの売上高全体に占めるHiSiliconのシェアは、現在の14%から、2021年には0%に下落するのではないか」と予測する。
また同氏は、EE Timesに提供したレポートの中で、「Huaweiのファウンドリーは、TSMCとSMICの2社だ。SMICの2019年売上高全体に占めるHiSiliconの割合は、19%だった」と指摘する。
「TSMCとSMICは、5月15日の時点で製造中だったウエハーに関しては、3〜4カ月のサイクルタイムを完了することが許可されている。しかし、この120日の猶予期間が終了した後、何らかの解決策や和解策、抜け道などが見つからない場合は、両社ともHuawei向けの生産を停止することになるだろう」(同氏)
混乱するサプライチェーン
Credit Suisseのレポートによると、Huaweiに対する制限措置は、同社が引き続き製品を出荷することが可能かどうかによって、サプライチェーンにもさらなる影響を及ぼす可能性があるという。
Huaweiの年次報告書によると、中国最大の技術メーカーである同社の2019年売上高は、1240億米ドルだったという。その内訳は、通信事業(主に電気通信機器)が全体の35%、コンシューマー事業(主にスマートフォン)が54%、エンタープライズ事業(スイッチ/ルーター)が10%である。
地域別にみると、Huaweiの売上高全体に占める割合は、中国が59%、欧州やアフリカ、新興市場が24%、米国が6%、中国以外のアジア地域が約8%となる。
Arete ResearchのSimpson氏によると、Huaweiは、米国政府による規制強化を懸念して、ここ約2年間にわたり製品を備蓄してきたという。
一部の企業は、パンデミックに関連した景気後退からの迅速な回復に賭けているが、そのような期待は負債に変わる可能性もある。
Credit Suisseは「機器メーカーや大手チップメーカーの顧客の予測を見ると、積極的なV字回復を見込んでいる。もしサプライチェーンが、そのシナリオに沿って構築され、備蓄が行われているとすれば、市場では供給過多になるだろう」という懸念を示している。
「2020年前半の在庫レベルの拡大は、同年第4四半期から2021年第1四半期にかけてエンドマーケットが回復しなかったり、事業活動が2020年後半に完全に正常化しない場合、在庫消化のためにアジアのファウンドリーにリスクを与える可能性がある」(Credit Suisse)
TSMCのLiu氏は、Appleがエレクトロニクス業界の鍵を握ると見ているが、そのような見解を持っているのは同氏だけではないようだ。
Simpson氏は、Huaweiが海外市場からの撤退を余儀なくされる可能性も出てきた今、AppleはAndroidエコシステムに対して強気に出られる立場にあるとする。「Appleは第2世代の『iPhone SE』を比較的低価格で発売したばかりだ。次世代の『iPhone 12』がどのような価格帯で発表されるかは、注視しておく必要があるだろう」(同氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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