東京大、IGZOトランジスタとRRAMを3次元集積:多層ニューラルネットを1チップに
東京大学生産技術研究所の小林正治准教授らは、膜厚が極めて薄い酸化物半導体「IGZO」を用いたトランジスタと、抵抗変化型不揮発性メモリ(RRAM)を3次元集積したデバイスを開発し、インメモリコンピューティングの機能実証に成功した。
インメモリコンピューティングの機能を実証
東京大学生産技術研究所の小林正治准教授らは2020年6月、膜厚が極めて薄い酸化物半導体「IGZO」を用いたトランジスタと、抵抗変化型不揮発性メモリ(RRAM)を3次元集積したデバイスを開発したと発表した。ディープラーニングの多層ニューラルネットワークを1チップ上に実装することが可能となる。
ディープラーニングの計算では、高速演算能力と同時に低消費電力が要求される。このため、メモリ自体で演算も行う「インメモリコンピューティング」が注目されている。ところが通常のメモリ配列だと2次元構造のため、ネットワークのモデルが大規模になると、2次元メモリ配列のサイズが大きくなってしまう。この結果、配線長が長くなって信号の遅延が生じたり、消費電力が増加したりするなどの課題があった。同時アクセス可能なメモリ量が制限されることで、並列計算が制約を受けることもあるという。
そこで今回、メモリ配列を3次元積層したデバイスの開発に取り組んだ。試作したデバイスは、各層が抵抗変化型不揮発性メモリとIGZOトランジスタからなるメモリセルの配列で構成されている。IGZOトランジスタは400℃以下のプロセス温度で形成することができ、移動度は10cm2/Vsを達成した。しかも、IGZOトランジスタは大きな電流を駆動でき、RRAMへの書き込みも適切に行うことができるという。
左はIGZOトランジスタの断面TEM像、中央はIGZOトランジスタのドレイン電流-ゲート電圧特性、右はRRAMのみのメモリ特性(赤)とIGZOトランジスタで駆動したRRAMのメモリ特性(黒) (クリックで拡大) 出典:東京大学
試作したデバイスについて、各層におけるメモリセル特性を比較した。その結果、不揮発性メモリ特性や信頼性はほぼ同じ数値で、積層プロセスによる劣化は見られなかった。このことは、さらなる多層化が可能であり、ネットワークモデルの拡張にも対応できることを示したものだという。
小林氏らは、開発した3次元積層デバイスを用いて、インメモリコンピューティングの機能を実証した。具体的には、RRAMにニューラルネットワークの重みを学習させ、IGZOのゲートにつながるワード線に入力データを印加した。その組み合わせによって、プリチャージをしておいたビット線の電圧が放電され、XNOR演算結果をビット線の出力電圧として得ることができる。しかも、定常電流が発生しないため、従来に比べ消費電力を10分の1以下にできるという。
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