産総研、金属誘電率を100GHz超の帯域まで計測:ポスト5G/6G用材料開発を加速
産業技術総合研究所(産総研)は、金属材料の誘電率を100GHz超の帯域まで測定できる技術を開発した。6G(第6世代移動通信)システムに向け、低消費電力を可能とする高周波回路向けの材料開発に弾みをつける。
導電率を決める「電磁界解析アルゴリズム」を開発
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループの加藤悠人主任研究員と堀部雅弘研究グループ長は2020年6月、100GHz超の帯域まで金属材料の誘電率を測定できる技術を開発したと発表した。6G(第6世代移動通信)システムに向け、低消費電力を可能とする高周波回路向けの材料開発に弾みをつける。
2030年頃にも導入が計画されている6Gシステムでは、高速大容量通信の実現に向け、100GHzを超える周波数帯の利用が検討されている。これを実現するためにはいくつかの課題がある。例えば、高い周波数でも回路の伝送損失を小さく抑えることが可能な材料の開発や、この特性を検証するための計測技術などである。
産総研はこれまで、金属円板を誘電体基板で挟んだ平衡型円板共振器を用い、170GHzまでの広い周波数帯域において、高い精度で誘電率を測定する技術を開発してきた。ところが、高周波回路の低消費電力化に向けては、「誘電損失」と同時に「導電損失」を低減しなければならず、導電率についても高い精度で計測するための技術が必要となる。ただ、誘電体共振器の基本モード共振を用いる従来の導電率計測は、共振器の加工精度など課題もあり、ミリ波帯において実用的な導電率計測の技術がこれまで確立されていなかったという。
産総研は、同一の誘電体基板と異種の金属を組み合わせた2種類の平衡型円板共振器を用いて、導電率の計測を行った。平衡型円板共振器は、2枚の誘電体基板の間に金属円板を挟んだ構造である。今回用意したのは、既に導電率が分かっている基準銅円板からなる共振器と、測定する金属円板(黄銅とステンレス)からなる共振器である。
これらの共振器を用い、110GHzまでの共振波形を観測した。この結果、全ての共振器で等間隔に現れる特定の共振モードのみが観測されることを確認した。約16GHzの基本モード共振と、約13GHz間隔で出現する高次モードの共振についてその特性を測定。新たに開発した電磁界解析アルゴリズムを用い、各共振周波数における金属の導電率を高い精度で求めることに成功した。
今回は、共振器の給電機構に用いた同軸線路の特性により、110GHzまでの測定となった。誘電率の測定では極めて細い同軸線路を用いることで、共振器は170GHzまでの信号を入力することができるという。導電率測定についても今後、さらなる高周波化の開発に取り組む計画である。開発した技術は銅箔(はく)が誘電体基板上に実装された銅張基板の導電率計測にも適用できるという。
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