三菱電機、SiC-MOSFETの高精度SPICEモデルを開発:回路設計効率化に貢献
三菱電機は、SiC-MOSFET「1200V-Nシリーズ」を用いた回路設計時のシミュレーションに有用な、高精度の「SPICEモデル」を開発した。実測とほぼ同じシミュレーション結果が得られるという。
高速スイッチング時の電流波形を高精度に模擬
三菱電機は2020年7月、SiC-MOSFET「1200V-Nシリーズ」を用いた回路設計時のシミュレーションに有用な高精度の「SPICEモデル」を開発したと発表した。実測とほぼ同じシミュレーション結果が得られるという。
SiC(炭化ケイ素)を用いたパワー半導体は、電力損失を大幅に低減できるため、産業用機器や鉄道車両、エアコンのインバーターシステムなどに採用され、消費電力の低減や機器の小型化などに貢献している。同社はこれまでも、SiC-MOSFETなどを搭載したSiCパワー半導体モジュールを供給してきた。2020年7月には、1200V-Nシリーズのサンプル出荷も始めた。
SiC-MOSFETを用いて機器を開発する場合、技術者は電力変換回路やゲートドライブ回路を独自に設計する必要がある。この時、回路シミュレーターを用いて動作確認を行うのが一般的だが、利用するSPICEモデルの精度によって、設計効率は大きく変わるという。
これまで同社が提供してきたSPICEモデルは、ドレイン−ソース電圧やゲート−ソース電圧と、これらの電圧によって変動する容量値の相関関係が正確に模擬されていなかった。このため、高速スイッチング動作時に電流波形の解析精度が十分ではなかったという。
今回開発した高精度のSPICEモデルは、SiC-MOSFETがスイッチングしている時の電圧と電流波形から寄生容量の特性を評価し、その結果をSPICEモデルに反映した。この結果、ターンオンスイッチング波形の解析では、全ての電圧と電流で、実験による測定値とシミュレーションの結果がほぼ一致したという。特に、ドレイン電流の波形では、電流立ち上がり波形の誤差を、従来の40%から15%へと大幅に削減することができた。
さらに、SiC-MOSFETを駆動する電流波形(ゲート電流波形)の高精度シミュレーションも可能となった。これにより、ゲートドライブ回路を設計する時、要求される電流値に対し適切な素子の選定が容易となった。
三菱電機は、室温対応となっている現在のSPICEモデルに、高温対応のパラメーターを追加し、今後は社外の顧客にも提供していく予定である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 三菱電機、200億円でパワー半導体新拠点を設置
三菱電機は2020年6月11日、シャープから福山事業所(広島県福山市)の一部を取得し、パワー半導体を製造する新拠点(前工程)を開設する、と発表した。投資額は総額約200億円で、2021年11月の稼働開始を目指す。 - 三菱電機、電力密度136kW/Lの電力変換器を実現
三菱電機は、パワー半導体素子と周辺部品を高集積に実装する技術を開発、この技術を用いて電力密度136kW/Lの電力変換器を実現した。 - 三菱電機、名古屋製作所でローカル5Gの実証実験
三菱電機は、ローカル5G(第5世代移動通信)システムと自社のFA製品を用いた実証実験を名古屋製作所(愛知県名古屋市)内で始めた。 - 三菱電機、薄型のKa帯対応航空機用AESA技術を開発
三菱電機は、厚みが3cm以下という薄型で、Ka帯に対応する航空機用電子走査アレイアンテナ(AESA)技術を、情報通信研究機構(NICT)と共同で開発した。 - あいまいな命令でも理解!エッジAIによるHMI制御技術
三菱電機は2020年1月28日、エッジで動作可能かつ曖昧な命令でも不足情報を自動補完して理解するAI技術を開発した、と発表した。同社のAI(人工知能)技術「Maisart(マイサート)」を活用したもの。家電や車載情報機器のHMI(Human Machine Interface)制御技術として、2022年以降の商用化を目指す。 - IGBTとIPM主軸に売上高2000億円超へ、大型投資も実施
人口増加や経済成長、テクノロジーの発展に伴って世界のエネルギー消費量が増加を続けるなか、省エネ化/低炭素社会のキーデバイスとなるパワー半導体に注目が集まっている。今回、IGBTをはじめとするパワー半導体の主要メーカー、三菱電機の執行役員、半導体・デバイス第一事業部長、山崎大樹氏に話を聞いた。