東工大ら、「p型透明超伝導体」を初めて実現:常温で高いp型伝導性と透明性示す
東京工業大学と東北大学は共同で、低温では超伝導体となる「層状ニオブ酸リチウム(LiNbO2)」が、常温で「p型透明導電体」になることを発見した。
三段階合成法で超伝導薄膜の合成に成功
東京工業大学物質理工学院応用化学系の相馬拓人助教と大友明教授は2020年7月、東北大学多元物質科学研究所の吉松公平講師と共同で、低温では超伝導体となる「層状ニオブ酸リチウム(LiNbO2)」が、常温で「p型透明導電体」になることを発見したと発表した。
大友氏らの研究グループは、p型透明超伝導体の候補としてLiNbO2に着目した。ところがこの物質は薄膜合成が難しく、これまで透明性の詳しい性質までは解明されていなかったという。
研究グループは今回、開発した三段階合成法を用いて、超伝導薄膜の合成に初めて成功した。その最終過程では、薄膜状の物質をヨウ素溶液に浸すだけで、電子を引き抜くことができる化学反応を活用した。
合成した薄膜は、4.2K(−269℃)以下の極低温で電気抵抗はゼロとなり、超伝導体であることを確認した。一方、ヨウ素溶液から取り出した薄膜状の物質は赤色から黄色へと変化、可視光の平均透過率は50%に達した。常温での性能を、従来のp型酸化物透明導電体と比べたところ、電気伝導性と透明性のいずれも優れていることが分かった。
研究グループは、詳細な物性測定と解析も行った。この結果、物質内でニオブ原子と酸素原子が作る三角柱型の二次元層に起因して、強相関電子と孤立したバンド構造が実現されることが分かった。これらの電子状態が協奏をすることにより、近赤外と紫外領域の両方で透明性が実現されていた。さらに、ヨウ素溶液の酸化作用を活用してこれらを調整すると、超伝導を発現しつつ可視光領域の透明性を向上できることが分かった。
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