京都大とミネベアミツミ、無線給電で社会実証試験:走行車両からトンネル内部を点検
京都大学とミネベアミツミは、マイクロ波(電磁波)を用いたワイヤレス給電技術を活用し、トンネル内部の劣化状況などを効率よく点検するための「巡回型インフラモニタリングシステム」について、実証実験を行う。
交通規制を行わず、インフラ構造物の劣化などを把握
京都大学とミネベアミツミは2020年10月9日、マイクロ波(電磁波)を用いたワイヤレス給電技術を活用し、トンネル内部の劣化状況などを効率よく点検するための「巡回型インフラモニタリングシステム」について、実証実験を行うと発表した。
京都大学らが実用化を目指しているのは、例えばトンネル構造躯体にボルトで固定されている排煙用ジェットファンなどの重量付帯設備が、経年劣化などにより落下したり崩落したりしないかどうかを、走行中の車両から監視や点検ができるシステムである。
同システムの実用化に向けて今回は、主に3つの要素技術を検証するという。1つ目は、時速50kmで走行する車両に搭載された高速ビジョンセンサーを用いて、トンネル側に設置された模擬センサー(給電対象)を捉え追跡する。2つ目は、捉えた模擬センサーに対しピンポイントで10Wのマイクロ波無線送電を行い、模擬センサーが受信した電界強度(受信電力)レベルを確認する。3つ目は路車間通信で走行車両にフィードバックされるセンシングデータの妥当性を確認する、ことである。
社会実証試験は、2020年10月19〜24日の日程で行う。場所は京都府宮津市の地蔵トンネル避難抗内(全長3692m)を利用する。特に、トンネル外部への電波漏えいを防ぐため、出入り口に電磁シールドを施し、地蔵トンネル本坑と避難坑の連絡通路となる拡幅部分に、電池レスボルト軸力センサーを想定したポール付き模擬センサーを設置した。
京都大学はこれまで、マイクロ波を用いたワイヤレス給電技術の研究を長年行ってきた。また、ワイヤレス給電の実用化に向け、「電動車両向けワイヤレス給電」や「電池レスセンサーへのワイヤレス給電」などの社会実証実験も重ねてきた。そして今回、国家戦略特別区域制度を活用し、地蔵トンネル避難坑における巡回型インフラモニタリングシステムの社会実証試験を行うこととした。
このシステムは、大きく3つの技術を結集している。1つ目は車両に48素子をアレー状に配置した平面アンテナを搭載し、マイクロ波をビーム状に形成して放射する「マイクロ波無線送電技術」。2つ目は、150度をカバーする広角レンズを備え、毎秒1000フレームというビジョンセンサーの高速フレームレートに合わせ、1ミリ秒で指向性を制御するための「高速画像信号処理技術」である。
そして3つ目は、独自のひずみゲージ「MINEGE(ミネージュ)」をボルトに埋め込み、ボルトの緩みを直接検出できるようにした「電池レスボルト軸力センサー」からなる。これらは主にミネベアミツミの研究開発グループが開発した。今回の実証実験では、電池レスボルト軸力センサーの代わりに、これを模擬したポール付きセンサーを用いる。
京都大学では既に、マイクロ波送電アレーアンテナの性能評価を行い、想定したマイクロ波位相制御特性(ビーム指向性)が得られることを確認している。また、トンネル施設での予備実験では、時速80kmで走行中の車両から、トンネル内に設置された位置マーカーの検出と追跡に成功しているという。位置マーカー検出にビジョンシステムを活用した理由について、「将来は、コンクリートのひび割れ情報なども同時に収集したい」からだという。
国土交通省によれば、2033年にトンネル全体の50%が、建設されて50年を経過するという。これまで熟練作業者に頼ってきた社会インフラ構造物の管理、点検作業は限界を迎えつつある。今回の実験は、無線給電とIoT(モノのインターネット)技術を活用した予知保全により、交通規制を行わずに点検を行うなど、保守管理サービスの効率化を目指したものである。
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