東京大、大面積の強誘電体薄膜を評価可能に:分極スペクトルを3次元的に決定
東京大学らの研究グループは、強誘電体薄膜における分極の向きや大きさなど、分極スペクトル情報を得ることができる新たな手法を開発した。この手法を用いると、実用的なデバイスを評価するのに十分な面積に対応できるという。
フェムト秒レーザーパルス励起のテラヘルツ波放射を利用
東京大学大学院新領域創成科学研究科、東京大学大学院工学系研究科、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリの共同研究グループは2020年11月、強誘電体薄膜における分極の向きや大きさなど、分極スペクトル情報を得ることができる新たな手法を開発したと発表した。この手法を用いると、実用的なデバイスを評価するのに十分な面積(最大1mm2)に対応できるという。
強誘電体は、外部電圧の向きによって分極方向が可逆的に反転する。この現象を利用してメモリデバイスなどが開発されている。これ以外にも、焦電性や非線形光学特性などの機能を備えている。これらの性能は、強誘電体の分極方向とその大きさに依存するという。分極情報を得るため、これまでは主にプローブ顕微鏡を用いていた。しかし、この手法だと実用的なデバイスを評価するための十分な領域で、分極ベクトル情報が得られなかったという。
研究グループは既に、「強誘電体試料にフェムト秒レーザーパルスを照射するとテラヘルツ波放射が生じる」ことや、「放射したテラヘルツ波の電場振幅と位相がそれぞれ分極の大きさや向きに依存している」ことを明らかにしてきた。
そこで今回、フェムト秒レーザーパルス励起のテラヘルツ波放射を用い、分極をさまざまな方向から測定することにした。実験では、薄膜試料として有機強誘電体の「2-メチルベンゾイミダゾール(MBI)」を用いた。MBIは室温で優れた強誘電性を示し、分子の配列方向がそろった単結晶薄膜を常温、常圧下の印刷法で作製できることが分かっているからだ。
具体的には、フェムト秒レーザーパルスの光軸(y軸)に対し、測定試料をz軸回りにθ回転、x軸回りにη回転することで分極の方向を回転させた。この結果、分極の向きや大きさによって、テラヘルツ波の電場振幅が変化することを見いだした。その振る舞いを解析したところ、分極がy軸に対してはψ=45°、z軸に対してはξ=90°の傾きがあれば、実験結果を再現できることが分かった。
空間分解能は、照射するフェムト秒レーザーパルスの集光サイズで決まるという。今回の集光サイズは25μmである。プローブ顕微鏡の空間分解能には及ばないが、試料上でフェムト秒レーザーパルスの集光位置を走査することにより、最大1mm2という大きな領域でも、分極情報の空間分布を評価することが可能となった。
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