二酸化炭素の吸脱着で磁石のオンオフ制御に成功:二酸化炭素磁気センサーに応用
東北大学金属材料研究所の研究グループと大阪大学は、二酸化炭素の吸脱着により磁石のオンオフ制御が可能な「多孔性磁石」を開発した。二酸化炭素磁気センサーなどへの応用を視野に入れている。
水車型ルテニウム錯体とTCNQ誘導体からなる層状分子磁石を作製
東北大学金属材料研究所の張俊博士と高坂亘助教、宮坂等教授らの研究グループは2020年12月、大阪大学基礎工学研究科の北河康隆准教授とともに、二酸化炭素の吸脱着により磁石のオンオフ制御が可能な「多孔性磁石」を開発したと発表した。二酸化炭素磁気センサーなどへの応用を視野に入れている。
研究グループは、「金属・有機複合骨格(MOF:Metal-Organic Framework)」と呼ばれる分子性多孔性材料に着目してきた。金属イオンと有機配位子の複合化によって合成される金属錯体を基にした多次元格子である。MOFを用いた多孔性分子磁石(MOF磁石)は、合成時に用いる有機溶媒や水などの「小分子」を空孔内部に含んでいる。しかも小分子は、抜け出たり戻ったりすることができる。
研究グループはこれまで、このMOF磁石を用い「溶媒の吸脱着により磁気相転移温度を変える磁石」の開発や、「酸素ガスの吸脱着による磁石のオンオフ制御」を実現してきた。今回は、常磁性を有する「酸素ガス」ではなく、これまで磁石のオンオフ制御が難しいと考えられていた非磁性(反磁性体)の「二酸化炭素ガス」を用いて検証した。
実験には、電子供与性分子「カルボン酸架橋水車型ルテニウム二核(II、II)金属錯体」と電子受容分子「TCNQ(7,7,8,8-tetracyano-pquinodimethane)誘導体」からなる層状分子磁石を用いた。この層状分子磁石は、二酸化炭素を吸着するまで、磁気相転移温度(TC)が110Kのフェリ磁性体(磁化オン状態)である。これに二酸化炭素を吸着させていくと磁化は減少。5kPa以上の圧力を加えて吸着させるとほぼ完全に磁化がオフ状態の常磁性体となった。
二酸化炭素を脱着させると元のフェリ磁性体に戻る。磁化のオンオフ制御は繰り返し行うことができるという。しかも、二酸化炭素の吸着脱に伴う変化は、磁気特性だけでなく、電気伝導度や誘電率といった電気物性にも影響を及ぼすことが分かった。
研究グループは、吸着状態や脱離状態の結晶構造を詳細に調べた。この結果、ルテニウム二核錯体とTCNQ誘導体の電子状態が、二酸化炭素吸脱着の前後で変化していることが分かった。実験に用いたMOF磁石は二酸化炭素の吸脱着により、構造だけでなく構成分子の電子状態も変化した。これによってTCNQ誘導体上のスピンが消失し、磁気相互作用パスが分断されるため、磁化のオンオフ制御を実現できたという。
結晶構造を基に量子化学計算による検討も行った。この結果、二酸化炭素が吸着した磁化オフ状態の安定化には、吸着二酸化炭素分子とMOF骨格のTCNQ誘導体部分との間の電子的相互作用が大きく影響していることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東芝ら、HDD用書き込みヘッドの磁化挙動を解析
東芝と高輝度光科学研究センター(JASRI)および、東北大学は、HDD用書き込みヘッドの磁化挙動を100億分の1秒という高い精度で画像化することに成功した。東芝は、次世代HDD向け書き込みヘッド開発に、今回の解析技術を応用していく。 - 東北大と山形大、衝撃発電軽金属複合材料を開発
東北大学と山形大学の研究グループは、鉄コバルト系磁歪ワイヤとアルミニウム合金からなる衝撃発電複合材料を開発した。強度や高温耐性が求められる自動車部材や輸送機器のエンジン駆動部などに実装して、衝撃による発電が可能となる。 - GaN-HEMT、表面電子捕獲の時空間挙動を直接観測
東北大学の研究グループと住友電気工業、高輝度光科学研究センターは、窒化ガリウム(GaN)を用いた超高速トランジスタ(GaN-HEMT)が動作している時に、表面電子捕獲の時空間挙動を直接観測することに成功し、その詳細なメカニズムも解明した。 - 光を用い薄膜磁石の極性を制御する新手法を開発
東北大学電気通信研究所とロレーヌ大学(フランス)の共同研究チームは、光を用い高速かつ低エネルギーで薄膜磁石の極性を制御できる方法を開発した。これをHDDの記録方式に応用すれば省エネ化が可能となる。 - 磁性強誘電体における熱の整流効果を初めて観測
東北大学らの研究グループは、磁性強誘電体において「熱の整流効果」を初めて観測した。この性質を用いると、電場や磁場によって熱が通りやすい方向を自在に切り替えることが可能となる。 - 東北大、SOFCの電極特性を向上させる機構を発見
東北大学は、酸化物表面の触媒活性を容易かつ高速に測定できるパルス同位体交換法を用い、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極特性を向上させる機構を発見した。