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光を用い薄膜磁石の極性を制御する新手法を開発:高速、低エネルギーで磁化反転
東北大学電気通信研究所とロレーヌ大学(フランス)の共同研究チームは、光を用い高速かつ低エネルギーで薄膜磁石の極性を制御できる方法を開発した。これをHDDの記録方式に応用すれば省エネ化が可能となる。
HDDの省エネ化に期待
東北大学電気通信研究所の五十嵐純太氏(博士課程学生、日本学術振興会特別研究員)らとロレーヌ大学(フランス)の共同研究チームは2020年10月、光を用い高速かつ低エネルギーで薄膜磁石の極性を制御できる方法を開発し、その動作実証に成功したと発表した。開発した手法をHDDの記録方式に応用すれば省エネ化が可能となる。
今回の実験では、フェリ磁性体の「GdFeCo」と非磁性体の「銅」および、強磁性体の「Co/Pt」を積層した試料を用いた。この試料にレーザーパルスを照射した時、フェリ磁性層と強磁性層における磁化の変化について、磁気光学効果を応用した顕微鏡で観察した。
これまでも同様な実験が行われ、フェリ磁性体の磁化方向が反転するのに伴って、強磁性層も磁化方向が反転することは分かっていた。研究チームは今回、このメカニズムを解明。フェリ磁性体が反転する時に生成されるスピン流が、非磁性層を広がり強磁性層に到達。これが強磁性層の磁化反転を誘起していることを突き止めた。
その上で、高いエネルギー効率を実現するための新材料を設計。フェリ磁性体を反転させずに強磁性層の極性を反転させることができる方式を新たに開発した。この結果、従来の制御方式に比べ、高いエネルギー効率を達成した。実験では、30フェムト秒の単一レーザーパルスを用い、低エネルギーで強磁性層の磁化反転が行えることを確認した。
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