東北大学、THz波の透過率と位相を電圧で制御:チューナブルフィルターを実現
東北大学は、6G(第6世代移動通信)システムに向けたチューナブルテラヘルツ波制御技術を開発した。メタマテリアルの電磁誘起透明化現象を、MEMSで動的に制御することにより実現した。
光メモリや光バッファへの応用にも期待
東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らによる研究グループは2020年12月、6G(第6世代移動通信)システムに向けたチューナブルテラヘルツ波制御技術を開発したと発表した。メタマテリアルの電磁誘起透明化現象を、MEMS(Micro electromechanical systems)で動的に制御することにより実現した。
5G(第5世代移動通信)システムの商用サービスが始まる中で、6Gなど次世代通信を見据えた要素技術の研究開発が本格化する。テラヘルツ波を利用する技術もその1つ。小型で部材コストも安く、高度なテラヘルツ波制御が行えるチューナブルフィルターなどの開発が行われている。
研究グループは、超微細構造体で構成される人工光学物質の「メタマテリアル」に着目し、メタマテリアルの電磁誘起透明化現象を、MEMSで自在に制御する技術を新たに開発した。メタマテリアル単位構造部は、可動はり上に1本の金属棒構造を形成し、それと直角になるよう2本の平行金属棒構造を固定はり上に形成した構造となっている。金属には金を用いた。
チューナブルフィルターは、これらのメタマテリアル単位構造を2次元的に配列している。MEMSアクチュエーターは静電気によって駆動する。これに電圧を印加すると、静電引力で可動はり上の金属棒が移動し、固定はり上の平行金属棒に近づく。これによって共振周波数付近ではテラヘルツ波の透過率や位相が大幅に変わる。この特性を利用して、テラヘルツ波の特性を精密に制御できるという。
下地の基板を取り除く製造方法により、これまで課題となっていた透過率の低下や不要な干渉波形の発生も解消することができた。実験では周波数1.832THzのテラヘルツ波に対し、印加する電圧によって透過率を38.8%の範囲で変えることに成功、位相は25.3〜47.8°の範囲で制御できることを実証した。
研究グループによれば、今回開発した電磁誘起透明化現象を動的に制御する技術は、量子コンピュータや光LSIを実現するための光メモリや光バッファにも応用できるという。
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