2021年の半導体市況を占う ―― 2桁成長は可能か:大山聡の業界スコープ(38)(2/2 ページ)
今回は、まだCOVID-19の感染拡大が続く2021年の半導体市況をどのようにみるべきか、分析してみたい。
2021年は2桁成長が期待できる?
総論として、2021年の世界半導体市場は、WSTS予測の8.4%成長をやや上回り、10%を超える成長が期待できる、というのが筆者の予測である。その前提条件として、5G関連の見通しとCOVID-19の影響について言及しておく必要があるだろう。
すでに述べたように、スマホの5G対応機向けのロジックIC需要は急速に伸びており、2021年には4億台を超える5Gスマホが出荷されるだろう(2020年は2億台前後)。5G対応SoCを出荷しているQualcommやMediaTekのコメントを聞く限り、実際には5億台を超える需要があるそうだ。だが、5Gスマホ用SoC製造のためには5nm/7nmクラスのプロセスが必要で、これをTSMCがどれだけ製造できるかがポイントとなっている。SamsungもTSMCに対抗すべく量産体制を整えているが、歩留りの改善で後れをとっている。そして、そもそもこのクラスの微細プロセス製造に不可欠なEUV露光装置も台数(=ASMLの生産能力)に限りがあることなど、技術的にもサプライチェーン的にも極めて高いハードルをクリアしないと供給が追いつかない。「5Gを必要とするアプリケーションが立ち上がっていないので、端末の需要はアテにできない」という保守的な見方もあるが、通信キャリア各社による5Gインフラ投資はすでに加速しており、アプリケーションの開発も水面下で進められているはずである。この状況下では、4Gから5Gへのシフトは段階的に進むことが予想されよう。大手ITベンダー各社のデータセンター投資も今後は5G対応を意識する必要があるので、2021年以降の半導体市況の活性化要因として期待できるはずである。
次にCOVID-19の影響についてだが、世界の各地でロックダウンだ、外出禁止だ、などといわれ始めた当初は、経済活動がどこまで影響を受けるのか、何が必要で何が不足しそうなのか、そしてこの異常事態がいつまで続くのか、世界中が混乱に陥った。大手電機メーカーの2020年4〜5月に行われた決算発表においても、新年度(=2020年度)の業績予想発表を見送った企業が多く、見通しが立たなかった様子がうかがえた。リモートワーク対応でPCが売れた、巣ごもり需要でゲーム機が売れた、でもスマホの需要は伸びなかった、クルマが売れなくなったなど、当初はさまざまな変動があった。だが、PCは2020年後半には失速し、スマホやクルマの需要は後半から回復し始めた。2020年の前半と後半で半導体需要の内容が変化しているのは、COVID-19という異常事態が引き起こしたアプリケーションの変動によるところが大きかったのだろう。言い換えれば、実需のあったスマホやクルマの需要が一時的に停滞したものの、その穴を埋めるような反動が起こっている、とみることができる。
TSMCに需要が集中していることはすでに述べたが、UMC、SMIC、Vanguard、Hua Hong Graceなど、半導体受託製造(ファウンドリー)各社は前年比で軒並み業績を伸ばしている。身代金目的のランサムウェアの攻撃を受けて売り上げが落ち込んでいたXFABも、直近ではラインがフル稼働で納期調整の必要すら出ている、とのこと。これらのファウンドリーはアナログICやパワーデバイスを受託生産している企業が多く、「前半落ち込んでいた車載の需要が回復している」という声からも分かるように、COVID-19によって落ち込んだ需要が戻りつつある、という実態がファウンドリー各社の業績に表れているようだ。
まだ終息の目処が立たないCOVID-19に対して楽観視はできない。しかし、スマホ、PC、クルマなどの主要なアプリケーション市場の動向がある程度予測できるようになった現在、2021年の半導体市場についてはポジティブな見方ができそうである。業界の皆さんも、あまり悲観せずに強気な意気込みで新年、2021年に対処していただきたいと願っている。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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