「苦難の2020年を乗り越えた半導体業界」、SIAのCEO:米国はもっと投資を
半導体の売上高はこの苦難の年でも堅調さを維持しているが、われわれ半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)は米国の製造ならびに研究に対する投資が極めて決定的な機会を示していると確信している。
半導体の売上高はこの苦難の年でも堅調さを維持しているが、われわれ半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)は米国政府の製造ならびに研究に対する投資が極めて決定的な機会を示していると確信している。
2020年、半導体の世界需要は記録的に高まった。世界中の何百万人もの人々が以前は対面で行っていただろうさまざまな活動(仕事から学習、ショッピング、友人や大切な人に会うことまで)をオンラインでやらざるを得なくなった。それを受けて、世界は半導体や半導体が実現する技術にかつてないほど依存するようになった。その結果、半導体業界の2020年の売上高は2019年全体から6.8%上昇し、4400億米ドルに達した。
半導体売上高は堅調だったものの、2020年は混乱に満ちた1年だった。
2020年初頭、誰もが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが世界を支配する恐怖を目の当たりにした。パンデミックは甚大な数の犠牲者を出し、あらゆる人々の日常を根底から覆した。米国の経済は大混乱に陥り、半導体の需要と供給のバランスは幅広いエンドマーケット(とりわけ自動車市場)で破壊された。それにより、一部の半導体は世界的に不足し、その状態は2021年に入った現在でも続いている。半導体業界は新たな需要に対応するため、引き続き生産の増強に取り組んでいるが、一部の半導体については生産のリードタイムが最大26週であるため、残念ながら生産増強にはある程度の時間がかかるはずだ。
長期的に見れば、個人向け技術や半導体によって動くデバイスの需要の高まりによって、半導体市場は今後数年の間成長し続けるとみられる。個人向けデバイスやサーバに加えて、AI(人工知能)、5G(第5世代移動通信)、自動走行車、クリーンエネルギーといった半導体の長期的なアプリケーションも迅速に勢いを増しつつある。2021年には、半導体売上高は8.4%増加することが見込まれている。
米国はもっと大胆な投資を
需要の高まりは、高度な半導体開発技術を持つ国にとっては良いニュースといえるだろう。だが、米国は、政府の大胆な行動なくしては、半導体市場の次なる成長の波に乗り遅れる可能性すらある。米国に競合する各国の政府が半導体の戦略的な重要性を認め、長期にわたる半導体製造/研究に大胆な投資を行っている理由もそこにある。一方、米国は半導体製造に関して多額の報奨金を提供しておらず、半導体研究に対する連邦政府による投資はGDPのシェアと同様に横ばいとなっている。
米国では、政府のインセンティブにより工場の建設と運営コストが大幅に削減されていることが主な要因で、半導体工場の建設と運営にかかる費用が他国に比べて25〜50%高くなっている。その結果、米国政府が大胆な行動を起こさなければ、需要の増加に対応するために必要なチップは米国外で製造され続ける可能性が高い。実際、過去30年間で、米国における世界の製造拠点のシェアは37%から12%に減少している。
良いニュースは、2021年初めに制定された毎年恒例の防衛法が、国内の半導体製造と研究に対するインセンティブを確立していることだ(ただし、資金は提供しない)。米国を再びチップ生産の魅力的な製造拠点にするためには、大統領と議会が、国内の半導体開発/製造に向けた投資を行うためのインセンティブに、資金を提供することが不可欠となるだろう。
SIAおよび、米国の主要半導体メーカーの幹部らは、政府に、まさにそのような支援を求める書簡を提出した。こうした投資は、米国の製造業を活性化し、重要な国産産業を前進させる歴史的な機会となる。
米国企業は、将来を見据え大胆な目標を掲げている。GM(General Motors)は2035年までにガソリン車を段階的に廃止し、SpaceXは2021年2月に、民間人のみを乗せた宇宙船を2021年内に打ち上げると発表した。“われわれのほとんどが電気自動車(EV)に乗り、一部の人が宇宙へと旅立つような未来”は、半導体の上に築かれている。
半導体業界はパンデミックによってもたらされた課題を乗り切ってきたが、米国は、半導体需要の伸びを確実に“米国産チップ”で満たすべく、米国内の製造と研究開発をさらに奨励することに対し、真剣に取り組む必要があるのだ。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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